2003.10.4
ドッキドキ・モーニング NO.044:カカシって寝起きものすごく悪そうじゃないですか? 暫し、一同思い沈黙の中、カチコチと秒針の進む時計を見つめて。 「アスマ、起こして来い」 「俺…が?」 「お前しかおらんだろう」 さっさと行け、と。 皺くちゃの額に青筋をめいっぱい浮かべて、火影様がそうおっしゃられたのだ。 「ったくアイツは!任務を一体何だと思っとるんじゃ!!!」 扇子を力まかせに閉じたかと思ったら、そのまま二つにへし折ってしまう。 「これじゃどっちがS級任務だかわからねえな…」 「3分で連れて来い」 「無理に決まってんだろ!」 ありったけの武器を詰め込んで。 アスマは火影の前からしぶしぶ姿を消したのだった。 「てめえの任務の時ぐらい起きろよな〜」 部屋の前に仁王立ちとなり、憎々しい奴の可愛らしい寝顔を思い浮かべて。 込み上げてくる怒りと、専属の起こし役にといつの間にかなっていた自分の運命を呪い始めていた。 ドアを開け、特に声をかけることなく家へと侵入していく。 良く見知った寝室はすぐそこだ。 「可愛い顔して寝てやがってよ、殺すぞマジで」 幸せそうに枕を抱き締め、何やらモゴモゴと口を動かしているターゲット。 「カカシちゃ〜ん。今日はお仕事でちゅよ〜」 まずは優しく、声をかけてみてから。 軽く頬や髪、剥き出しの白い肩等を啄ばんでみる。 それから、揺さぶりをかけるのだ。 「ん…」 すると、いつだって一度は目を覚ますのである。 「おはよう」 「アスマ…?」 「そうだ、さっさと起きねえと犯っちまうぞ?」 「ヤダ」 満面の笑みでの誘いをこちらも満面の笑みで即答された。 「こらこら、だからそこで寝るなっつーの!」 目を閉じ、再度布団に潜り込もうとするところを何とか取り押さえ、上半身を抱き上げてやる。 「…眠い」 「てめえは仕事忘れたのか」 「うるさい」 振り上げられたクナイを持つ右手を、寸でのところでせき止めて。 「カーカーシー。てめえ毎度毎度いいかげんにしろよ…?」 もう言葉を発する度に唇が触れ合いを持つほどの距離で、睨み合っているカカシの目は据わりきっているのだ。 もうこうなってしまうとこちらも殺す気でいかない限り殺られてしまう。 だいたい、何だってここまで寝起きが悪いのか。 たかが起こしに行っただけで何人もの中忍・上忍・それから暗部たちが病院送りにされたかなんて、数えられたもんじゃない。 あらゆる武器、忍術を使い、追い出してしまうのである。 何とかクナイを弾き返し、 「起きやがれ!!!」 得意の体術でその両手を捻り上げた。 「やだー!」 「やだ、じゃねえだろ!…っておい!?」 一体どこから投げつけたのか、後方からの千本を寸でのところで交わせば、正面から投げられた一本がざっくりと肩に突き刺ささり、鈍い痛みが走る。 「て、めえ…」 無傷で帰還することは叶わぬ夢だということは重々承知しているが、実際怪我を負ってみると無性に腹立たしいのだ。 刺さったものを乱暴に引き抜き、床にカラン…と転がる金属音をやけにそう広くもない部屋に響かせる。 「もうてめえを起こすのも最後になるかもしんねえなあ、カカシ…」 そういえば、七班のガキどもからすれば大切な(?)教師を奪ってしまうことになるのか。 そうなったらうちで引きとればいい。 きっと、三人とも可愛い(?)はずだ。 少なくともいのは喜んでくれるだろう。 そんないらんことを思いながら、アスマは背中に装備していたマシンガンをガチャリ、と両手に構えて。 身体から離れたのをいいことに再度布団の中で丸まり、健やかな寝息を立てている同僚の元へと銃口を向けた。 「ま、撃ちゃさすがに起きんだろ」 冗談はここまで、とだるそうに煙草を咥え直し、引き金に手をかける。 数秒間でも撃ち続ければ、さすがに飛び起きてくるだろう、と。 「誰かいんのか?」 「あ?」 撃ち込もうと指に力を入れた瞬間で、まったく気がつかなかった気配に思わず振り返れば、銃口がその人物の方へと必然的に移動してしまった。 「うわ!何だその武器!」 手に持つおたまを日本刀のように両手で前に構え、こちらを一生懸命睨みつけ、威嚇している。 「サスケ…お前来てたのか」 「昨日ここに泊まった」 アスマがマシンガンを下ろせば、ほぼ同時におたまを下ろすサスケ。 張りつめた空気は一瞬だけのものとなる。 「で、あんた何やってんだ?」 台所から出てきたサスケはカカシに用なのか、とできあがったばかりの味噌汁を差し出して。 「この馬鹿を起こしにきたんだよ」 それを受け取り、味噌と茄子のいい香りを一度大きく吸い込んでから、口をつけつつアスマも答えている。 「お前がいるってわかってたら頼んじまえば良かったな」 なんて、冗談だけれど。 子供に、こんなことさせたらほぼ即死だろう。 「ふーん…」 「それよりこれ、美味いな」 空になったお椀をサスケに返し、お礼も込めてごわごわしたクセの強い黒髪を撫でながら。 「よく作ってるから」 ほんのちょっとだけ、頬を赤らめたサスケに、ずっと一緒にいると案外優しくて素直な子なんだよ〜、とカカシが飲みの席でするお決まりの自慢話を思い出した。 おかわりを用意してくれているあたり、かなり嬉しかったんだろう。 もっと、素っ気なくて冷たい子だとばかり思っていた。 「お前はここによく泊まってんのか?」 「うーん…、たまに」 たまに、という割には料理も作り、迷うことなく家事をこなしてる姿は新妻かなんかにしか見えないが気のせいだろう。 「それよりさっさと起こさなきゃな」 軽く伸びをし、今だ気持ち良さそうに眠ったままのカカシに向き直ると、 「今日そいつ何かあんのか?」 「ああ、任務だよ、任務」 「それって上忍としての?」 それを忘れやがったんだよこいつ、という意味合いも込めて、思い切り頷いた。 「アスマ…、ちょっとそこどいてろ…」 「え?」 助走の準備をしているサスケに思わず道を空けてしまったが、止めなければやばいではないか。 「ま、待てサスケ!!!」 飛び立つ瞬間、抱きかかえようと伸ばした指先に黒い寝巻きの端だけが掠め、当の本人はどーんと丸まるカカシの上にダイビングである。 マジかよおいー!と、この後のありとあらゆる惨劇が脳裏を駆け巡り、良くてサスケ重傷、庇った自分殉職、だ。 「てめえ!昨日今日は休みだって俺に言ったじゃねえか!」 「んん゙〜」 「起きろよ!仕事なんだろ!!!」 捲られた布団から覗く銀髪を、容赦なく引っ張っている。 「サスケ、もういい!」 「は?…アスマ?」 直も頭を叩き続けるサスケを脇に抱え、チョウジはともかくシカマルよりもずいぶん軽い体重を少々心配などしながら、脱出を試みた矢先。 布団の中からにゅっと伸びてきた腕に奪われてしまった。 ヤバイと焦っても時既に遅し。 サスケは布団の中へと引きずり込まれていく。 「サ、サスケ!!!」 「やっと起きたのかよ」 「うん。今サスケが熊みたいにでっかくてやらしい生き物に攫われる夢見てた…」 「なんだそりゃ」 布団から這い出してきた二人は、というかカカシはしっかりとサスケを抱き締め、幸せそうに頬ずりしているのだ。 「サスケ〜vvv」 首筋に埋もれた頭を再度叩きながら、 「仕事なんだろ!アスマがさっきからあんた起きるの待ってんだよ!!!」 さっさと身支度を整えるよう、促す。 「あ、え?アスマ、来てたんだ」 「あ、ああ」 「おはよう〜vvv」 側に寄れば抱き締められ、頬にキスされても微妙な気持ちでいっぱいで。 こんな穏やか(?)な目覚め、こいつと出会ってから初めてお目にかかった。 「さっさとしろよ、ジジィが御立腹だ」 「わかった」 サスケは慣れた様子で箪笥の引出しを開け、着替えのベスト等をカカシの顔めがけて投げつけている。 「ちょっと…、もっと優しく着替えさせてよ」 フン、とそっぽを向くその姿が拗ねた子猫のようで、思わず笑みを零してしまった。 結果、不信そうに睨まれる。 そうなのだ。 カカシは見た目に寄らず子ども好きなのだ。 それは子どもには甘い、ということ。 「あいつの料理上手さには驚いたな」 「へ?あいつってサスケの?」 「味噌汁食ってきた」 「何それ!俺食ってないのにアスマずるい〜!!!」 びょんと背中に飛びつかれて、半肩車状態のまま。 前半は少々てこずり、軽傷を負ったものの、双方無事に任務に向かうことができたのだ。 しかも可愛い子どもの見送り付きで。 それからまた数日後。 カカシはまた当然のように任務に来なかった。 もちろん、俺が指名を受け、またカカシ宅に向かっている。 サスケは確か、昨晩からナルトの家に泊まりに行くとかで、今日はいないようなのだ。 どうしたもんかと考えあぐねていると、 「あ、アスマせんせ〜!!!」 遠くで、オレンジ色の塊が手を大きく振りつつ、こちらにかけ寄ってくる。 「ナルト、お前サスケと一緒じゃなかったのか?」 「サスケ?サスケならまだ家で寝てるってばよ」 これ買いにきた、広げられたコンビニの袋の中を覗けば牛乳が1パック入っていた。 「サスケがホットケーキ焼いてくれるんだってさ!」 「へえ、そりゃ良かったな」 嬉々として跳ね上がる子どもは、本当に幸せそうな笑顔を浮かべている。 「じゃあね!アスマ先生!」 そのままの勢いでかけて行こうとするナルトの首根っこをわし掴み、ぶらりと持ち上げて。 「なあ、ちょっとだけ、時間いいだろ?」 「やだってばよ…」 大人が、こういう特有の嫌な笑顔を見せるときは、大抵碌なことが起こらないのだ。 「いいだろ、今付き合えば明日から二日間休みやるからよ」 「休み…?」 耳元で囁かれる甘い言葉に、決心が揺らぐ。 早くサスケの元に帰りたいが、二日間もの休みを貰ったらもっとサスケと一緒にいられるではないか。 手料理を食べ、一緒に修行して、それから…。 チラリとアスマを見やったのを合図に、ナルトも地面に下ろされ、共に歩むことになった。 それがカカシ宅だとは思いも寄らずに…。 暫くして着いた、この家の主は目の前でぐっすりと熟睡しているようだ。 「カカシ先生に何か用なのか?」 「まあな。ナルト、悪いがこいつを起こしてくれよ」 「え?う、うん…」 こんなんでいいのかな?と思いつつも、ナルトはカカシの上に飛び乗る。 「俺だと暴れちまって手に負えねえんだよ」 「そうなの?」 子どもだと素直に起きるなんざ、誰にでも可愛い部分はあるもんだなんて、呑気なことを思っている内にも、ナルトは髪を引っ張ったり、頬を叩いたり、背中を蹴飛ばしたりなんかを繰り返していた。 微笑ましいな、とアスマの口元が自然と緩む。 …そんな隙を突くように、何かが、頬を掠めて飛んできたのだ。 途端、流れ出てくる生温かいものを抑えながら、後方を確認すればざっくりと、クナイが壁にめり込んでいる。 ナルトはと言えば、避けることに精一杯だったらしく、ベッドから転げ落ち尻もちをついていた。 「いって〜!何なんだってばよカカシ先生!」 「うるさいな…」 何かがおかしい、とアスマは嫌な胸騒ぎを憶える。 「起きろって言ってんだろー!カカシ先生っ!!!」 再度、カカシに跨り、懲りることなく頭まですっぽり被っている布団を引き剥がした。 先ほどから小さな声で何やらブツブツを唱えているとは思ったが、姿を見せたときの構えは既に虎の印を結んでいて。 「火遁…」 「「え゙…?」」 背筋の凍る思いすら、する暇がなかったという…。 ドオォォ…ン…。 という爆発音が、早朝の木の葉の里にこだましていた。 「アンタ、ほんと馬鹿ねー。あのカカシが子どもなら誰でも良い訳ないじゃないの」 木の葉病院で、傍らの椅子に腰かけている紅が、丁寧に林檎の皮を剥いてくれている。 「ナルトにまで怪我させて」 「アレは悪かったと思ってる」 が、 「アスマせんせー!具合大丈夫?」 自分よりも爆発源の近くにいたナルトの方が重傷でいいはずなのに、奴は少々のかすり傷で、こちらのほうが重傷、というより重体なのだ。 「ああ、人工呼吸器は取れた、な…」 「そっか!」 「もうカカシは起こさなくていいからね、ナルト」 「わかってるってばよ!」 じゃあね〜、と、最後の検診に来たのだろうナルトは元気に走り去っていく。 そんな後ろ姿を見つめながら。 「サスケは特別なの」 「今回のことでよーく、わかった」 あのフラフラした遊び人を、あそこまで手懐けるとは子どもながらに天晴れだとしか言い様がない。 「はい、林檎剥けたわよ」 「ああ」 カカシにはムカつくが、怪我したお陰で、愛する恋人といられる時間が増えたのも事実だ。 とは言え、どうしても、ものすごくムカつくけれど…。 「なんかさー、うちガス爆発起こっちゃったみたいで、引っ越すのよ」 「またアンタやったのかよ」 「おかしいなあ、コンロとかちゃんと消してるはずなんだけどなあ」 「ったくしっかりしてくれよ!」 「じゃーサスケ、うちに住んでよvvv」 「断る」 なんて会話を。 今ごろ仲良く手を繋ぎながらしてるんだろうかと思うと、アスマは疲れきった溜息を洩らさずにはいられなかった。 END |
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