2003.8.14
夏の日 NO.061:夏といったらこれでしょう。 「ねえねえねえ!明日遊園地行こうってばよ!!!」 任務の帰り道、大声で叫びながら大きな夕日を背に走ってくるナルト。 「遊園地?」 「今たばこ屋のおばちゃんがチケットくれたんだってばよ〜vvv」 カカシのパシリで、煙草を買いに行かされたワケなのだが思わぬ収穫があったようだ。 よほど嬉しいのか、もらったチケットにぐりぐりと頬を押しつけている。 「なんか、お客さんにもらったらしいんだけど、行かないからって!」 「あ、ここ知ってるわ!新しくオープンしたところじゃない!」 「そうなの?」 「そうよ!ここ行きたかったのよ〜!」 ナルトに加わり、嬉々とするサクラを横目に、サスケもそのチケットに目を落とした。 そして、思い切り嫌な顔をする。 「何、サスケは遊園地とか嫌いなの?」 「別に、嫌いじゃない」 ジェットコースターや、バイキング等は怖いが、乗れないこともない。 ただ…。 ココは、お化け屋敷が廃墟となった病院を実際に使っているとかで有名なのだ。 こっそり、木の葉Walkerでチェックしていたから知っている。 こんなところに行ったら、サクラはともかくナルトとカカシが入らないわけがない。 「俺は…」 本当は行きたいけど、辞退すべきだ。 お化けは、嫌。 「じゃあ決まりねっ!明日楽しみだわーvvv」 サスケとデートvなノリで、サクラが腕を組んでくる。 「いや、俺は!」 「サスケも行くんなら俺も行っちゃおうかな〜」 「あ゙っ!」 しっかりと握っていたはずなのに、一瞬の隙を突かれたのかなんなのか一枚だけカカシの手の中に移動していて。 「何だ、4枚あるんじゃないの」 「ダメだってばよ!カカシ先生は暗闇でセクハラするから!!!」 「誰もお前になんかしないでしょ」 双方、額に青筋を浮かべて、睨み合っている。 毎日毎日飽きもせず…、と言いたくなるほどに日常的なことなのだが。 変態オヤジ。 エロ餓鬼。 と、邪悪な電波を発する二人を遮って、サクラが立ちはだかる。 「ちょっと!せっかく遊びに行く約束したんだから!明日も喧嘩したら二人とも承知しないわよ!」 むしろ殺す、と、背後で内なるサクラが中指を立てていて。 「わ、わかったってばよ、サクラちゃん…」 「大人の俺がこんなクソガキと喧嘩なんかするわけないって…」 「コラーッ!クソガキって言うな!」 再度食ってかかろうとするナルトの襟首を掴んで、サクラが改心の頭突きをお見舞いする。 「ナー、ルー、トォー…」 「…ごめんなさい」 カカシ先生も!と睨みつければ、何を考えてるのかわからないあのいつもの笑顔で誤魔化された。 ほんのちょっと前まではサスケとナルトがこういう状態だったはずだが、いつのまにか自分のライバルがまた増え、喧嘩するのが教師と生徒ではサクラとしても鼻息を荒くしえないところがある。 「ようするに、俺が暗いトコでセクハラするって言うんなら、暗闇に行かなきゃいいんでしょ?」 「…うん」 複雑に考え込んでいたサスケも、キュピーンとここでようやっと会話に参加する。 「それだ!」 「「「え?」」」 「いいか、約束だからな!明日は絶対ぇ暗闇には行かねえ!!!」 突然なんだろう、と三人は顔を見合すが。 「そ、そうね。あたしも暗いとこ嫌いだわ…」 微妙なカンジでまとめられ、明日はそれぞれの思いを胸に遊園地である。 ――――――――――――――――――――――――― 「うそつき」 カカシの背中にぴったりと貼りつくようにして、サスケは逃げ腰のまま進んでいた。 真っ暗く、所々に青や赤の光が差し込む、無機質な廊下を。 緑色にそこだけ照らされる非常灯はこんなにも薄気味悪いものだっただろうか。 「まあまあ、しょせん作り物なワケだしさあ」 「でも怖いものは怖いわよ!うう〜…」 さらに、そのサスケに貼りついているサクラもまたほぼ半泣き状態である。 遠くで、ガシャーン!などとまたガラス器具の割れる音なんかもしてくれるのだ。 その度に、びくびくと大袈裟な痙攣を起こしてしまう。 「だ、大丈夫だってばよ、サスケ、サクラちゃん!」 格好良く先頭を行くナルトは、多少はびくびくしつつもかなり頑張っている様子だ。 「ほら!きっともうすぐ出…口………」 「きたきた。霊安室と解剖室ね…」 たいてい、この二つの部屋は色々都合がいいように近くに設置されている場合が多い。 この建物が実際の病院であったのなら直のこと、である。 所謂、お化け屋敷というアトラクションのメインディッシュにさしかかったところなのだ。 「最低だ、こんなとこ…」 「もう帰りたいぃ〜」 カカシの背中にできたこぶ二つが、涙混じりにそうつぶやく。 「ゔっ…」 「どうしたの?ナルト君。まさか怖い、とか言う気じゃないよねえ」 「んなワケねえってばよ!カカシ先生こそさっきから足が震えてんぜ」 「あァ?!」 「あァーッ!?」 ぶっちゃけ、二人ともものすごく怖いから、少しでも気を紛らわそうと大声を出しているに過ぎないのだが…。 「大声出すの止めてよ!びっくりするじゃない!!!」 「殺すぞてめえら!畜生!俺をこんなとこに連れてきやがって!!!」 クナイを片手に、髪は振り乱し、顔中涙でぐしゃぐしゃにした容貌で叫ばれると、こちらまでもがホラーそのものに見えて余計怖い。 と、その時。 ギィ…、と鉄の軋むいやーな音を響かせながら、解剖室の重々しい扉が開かれた。 明らかに入って来い、と。 さらには入らない限り出られませんよ、というやつなのだ。 「ドア、開いたね…」 「そうね…」 顔をいくらか蒼白に変えながら、軽く目線を交わすナルトとカカシ。 「はい、ナルト。じゃーんけーん…」 「えっ?!あっ?ええっ?」 あたふたと、出す手を決めていれば、背中を思い切り蹴飛ばされ。 「なんてするワケないでしょうが。お前が行け!」 「ぎゃー!!!」 ナルトはべしゃっと、無様に解剖室の床に横たわる。 「キャッ!」 「でかい音立てんじゃねえよ!」 扉が開いた時点でカカシの上着の中に頭ごと入っているサスケと、そのサスケの上着の中に頭ごと入っているサクラには外で何が起こっているのかなど知ったことではないのだ。 「いてて…。あのクソ教師、いつか殺してやる…」 恨みがましく爪を噛み、入場時に手渡された懐中電灯であたりを照らしてみる。 中央に無機質な金属性の解剖台があって、周りには無数に積み上げられているホルマリン漬けの臓器標本。 「う、うう…。何なんだってばよ…」 突然、ピチャン…、ピチャン…、と、どこかから水の垂れる音が聞こえてきた。 気のせいではないはずである。 「ひっ!」 音のする先、ぼわーっと青白く照らされた一角にあるのは場違いだが、それは古めかしい井戸。 例の、アレである。 「カ、カカカカカシ先生ってば!い、いいいいい!」 「はあ〜?何なのよ」 カカシがひょっこりと顔を出すのよりも早く、ナルトは見てしまう。 淵にぺたりとかけられた、爪の全て剥がれ落ちた指先を…。 「ムギャーーーーーーーーーー!!!!!」 「うわっ!」 「キャーーーーー!!!」 「ギャーーーーー!!!」 四つん這いになって逃げ込んできたナルトの叫びに、恐怖を刺激されたサクラとサスケもほぼ同じ音量の悲鳴を上げる。 「サスケ…」 びりびりと、嫌な音とともに背中が急に涼しくなったことを感じつつ、カカシはボロ布と化した自分の後ろ身ごろを握りしめ縮こまっているサスケの前にしゃがみ込む。 さっきは馬鹿がデカイ声出すから、ちょっとだけビクついてしまった。 まったく、俺としたことが情けないNA…、などと自嘲気味な笑みを唇にのせて。 「大丈夫、怖くないって。だいたいお前、誰に掴まってると思ってんの。この俺だよ?」 ぎゅ、と手を握り返し、小さく震える身体を抱き締める。 「うっ、カ、カシ…」 嫌だって何度も言ったのに無理矢理お化け屋敷に連れ込んだのはてめえだろうが。 そう発したいのに、言葉が口から出てきてくれない。 「サスケ…」 「こ、ここここんなとこでセクハラやめろってばよ〜…」 「そうよ馬鹿〜!馬鹿バカバカ〜…」 口づけ寸前で頭を抑えられ、可愛い唇にはもう一息届かない。 「ちょっと〜、今イイトコなんだから邪魔しな…」 そこまでで、ぴたりと遮られたセリフを不信に思い、カカシを見上げれば。 「ぎゃーーーーーーーーーー!!!!!」 他のセットはやたらとハイテクを駆使しているくせに、ものすごく古典的な冷たいこんにゃく、というやつがぺったりとカカシのうなじに貼りついていた。 さらに運悪く、白目を剥いて奇声を発するその顔を、ナルトが懐中電灯で下からばっちり照らしていたりなんかもしている。 「「「フギャーーーーーーーーーー!!!!!」」」 「ギャッ!」 抜き足で近づいてきた貞子も、三人のあまりな叫び声に驚いたのかナルトの後ろで尻もちをついているのだ。 「も、もう死んじゃうってばよ…」 変態、最低、と床にヘタリ込めば、(普段から恐ろしいほどに冷たいが)すっかり冷え切ったサスケの指先がナルトの頬に添えられて。 「ナル…ト…」 反対側から、サクラに両手を握られた。 「あたしたちの分まで…、生き…て…」 がくり、と生き絶えた二人から伸ばされていた腕も力なく崩れ落ちていく。 「サスケー!!!サクラちゃーん!!!」 そこだけ意味もなくスポットライトに照らされ、その中心に立ち上がるナルト。 「うわー。びっくりした。なんだ、こんにゃくかよ…」 「今助けるってばよ!二人とも死ぬなーーーーー!!!」 のんびり蘇ったカカシを突き飛ばし、二つの躯を両肩に担ぎ上げたナルトは止まらない。 ガイ&リー顔負けの涙を流し、 「うおっ!ナルト?!」 のろのろ起き上がった貞子までもを巻き込み、カカシ共々井戸の中に突き落としてしまった。 それでも、そんなことにも気づかないで、ナルトは出口めがけて走り抜けて行く。 「ハァ、ハァ…」 はーっと、大きく息を吐き出して。 「危ないとこだってばよ、遊園地って…」 額の汗を男らしく拭い、夕日のやわらかい赤に照らされる静かなベンチで、眠ってしまったサスケとサクラの顔を見比べる。 「へへ、でもま、いっか」 左右からの心地良い重みに、まんざらでもない様子のナルトであった。 「あれ?そういえばカカシ先生ってば?」 きょろきょろ辺りを適当に見回しただけで終わった、そんな夏の日…。 END |
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