2004.1.15




する少年
NO.077ぴちぴちアカデミー時代、キバ、甘酸っぱいかな初恋の巻。





「じゃあサスケ、頼むな。俺もすぐ戻る予定だが…」
「わかった」

何だよ、まだ残ってたヤツいんのかよ。
宿題のプリントを机の中に忘れてきてしまい、慌てて取りに戻ってきたキバであったが、教室から聞こえてくる話し声になんとなく身を隠していた。
あれは、イルカ先生と。
うちはサスケ。
優等生だか何だか知らないが、女にモテるわ性格最悪だわでとにかく虫の好かない野郎である。
ナルトの阿呆が、でもたまにドキッとするっ顔するってばよ!などとわけのわからないことをほざいていたが、本当にわけがわからない。
綺麗な顔してる、というところ『だけ』は認めざるを得ないけれど…。



「と、いうことだ。キバも頼むな」
「へっ!?」
ぼうっとサスケなんか見て考え込んでいたら、イルカ先生の気配など、すっかり忘れていた。
「お前、今日も授業中寝てるかサボるかどっちかだったもんなあ…?」
「え、えへ!」
可愛く笑ってみたが、まったくの無駄だったようで頭をげんこつでぐりぐりされる。
それが案外、ものすごい激痛なのだ。
これで、上忍の、しかもあのはたけカカシを倒した、という伝説まであるくらいの技。
「いって!いってえって先生!」
「だったら大人しく罰を受けろ」
そう、サスケにだけよろしく言って、イルカ先生はそのまま出て行ってしまった。

「おいお前、さっさと始めるぞ」

教室に残されたサスケ様が、偉そうに顎で指示してきやがる。
こういうところが嫌なんだよ。
何でも自分がトップにいるなんだ思ってんじゃねーぞ。

「最悪だな、お前と二人で雑用かよ」
「それはお互い様だ」
明日配るものだろう小冊子を作るだけなのだが、山積みになったプリントの量を見るだけで気が滅入る。
これを一枚一枚半分に折り、番号順に並べてホチキスで止めてゆくのだ。
こういった単純作業は大嫌い。
しかもうちはサスケと二人きり。
宿題なんて、忘れたことにすればよかった。



「………」
「………」
「………」
「………」
「………つーかさ」
「?」
「お前も何かやった罰なのかよ」
黙ってりゃいいのに、どうも沈黙は苦手である。
優等生君はただ単に先生からお手伝いを頼まれただけなのだろう、お前と一緒にするなという科白が目に見えているのに。
「ああ、ニワトリを捕った」
「は?」
「アカデミーで飼ってんだろ、黒いの」
「あのチャボ?」
「よくわかんねえ」
「へ、へ〜」
何でニワトリ捕ったんだとか、疑問は多々あるが案外普通に会話が成立したことにも驚いた。
いつも喧嘩腰な態度でムカつく思いをするのは、こちらが喧嘩腰にしか話しかけていないからなのかもしれない。
「そんで、イルカ先生にめちゃくちゃ怒られた」
「でもよ、だったら返しゃいいじゃねーか」
ニワトリなんて、と。
何だかもっと会話を続けたくなって極力温和に聞いてみる。
「もう食っちまった」
「へ?!」
「干し肉も作ったんだよ、食うか?」
ポケットの中をごそごそし始めたかと思ったら、これ以上ない、というくらい漆黒の瞳を輝かせて干し肉を目の前に差し出してきた。
よほど、自信作だったのだろう。
しかも、何だか可愛い…。
「どーも…」
受け取ったそれは綺麗なピンク色をしているが、あのアカデミーに入学当時から世話してきたやつだと思うと何ともいえない感覚に襲われる。
こいつも、飼育委員とかたしかやって…。
「って!ちょっと待てよ!お前飼育委員じゃなかったか?!」
率先して世話していたのだ、ニワトリやらウサギやらモルモットやらの。
「そうだ、コイツだって元は俺が買ってきたヒヨコなんだ」
それなのに捕って食ったからといって怒られるのは何とも理不尽だ、とでも言いたげに睨まれる。
「俺を睨むんじゃねーよ」
「フン」
「要するに食うために育ててたんだよな」
「牧場だってあるだろ」
「そうだな」
でも普通学校で飼ってる生き物は食わねえだろ。
人の先入観とは怖いものだ。
こんなにおもしろい奴だとは思ってもみなかった。
少々背筋が冷える気はするけれど、こいつにこれは有りな気がする。



「お前さー、俺の名前知ってんの?」
「キバだろ、犬塚キバ」
「へ〜、知ってんだ♪」
覚えられていたことは素直に嬉しいが、必要以上に喜んでないか?俺。
「お前ナルト並に目立つぞ」
「そうか?」
ナルトも…、ってそりゃ知ってるか。
何かムカつくな。
何でだ?
「お前はサスケだよな、うちはサスケ」
「何だよ、気持ち悪ぃな」
ほんのちょっとだが、サスケの頬が桃色に染まったような気がする。
こういう微細な変化を、獣は見逃したりはしないものなのだ。

「っ!」
気分良くプリントを折り曲げていたら、少々調子に乗っていたせいかわからないが紙の端で指先を切ってしまって。
紙というものは、地味なくせに鈍い痛みを残してくれる。
「いってえ〜!ちくしょう〜〜〜〜〜!!!」
「何だ?」
悶えながら、人差し指をサスケに向ければ、結構スッパリいったようで生温かい血液がたらりと指の股まで垂れてきた。
「くっそ〜」
「こんなの舐めときゃ治るだろ」
「簡単に言うけどなあ、紙で切るって痛えんだよ!」
お前だって苦しんだことあるだろが、と、大袈裟だと鼻で笑うサスケに喰ってかかる。
「う〜!いってえ〜!どうにかしろてめ…」
ん?
どうなってんだ今。
がしっと人差し指を捕まえられたかと思ったら、そのまま口の中に入れられて。
舌が、傷口に当たって何ともいえない感触を味あわせてくれている。
そう、サスケの舌が。
サスケの…?

「うおっ!お前何…!!!」
ほぼ反射的に手を振り払ってしまう。
「だから舐めときゃ治るって言っただろ?」
「いや、そうゆう問題じゃ…」
つーか俺を殺す気か。
この心臓の動き、尋常じゃないぞ。
「お前大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえよ」
お前のせいでな。
「顔、真っ赤だぞ?」
「う…」
コツン、とぶつかってくるサスケの額。
自分が熱を持ち過ぎているのか、相手が低すぎるのか。
その温度差がとても心地良いものだったけれど。
この顔、この身体で、こんなに無防備な人間がいていいのだろうか。
心配になってくる。


もしかして。
俺は、コイツが好きなのか?


「あーあ…、どうなってんだ俺」
「風邪じゃねえのか?」
思えば、ムカつくだ何だのと理由つけて絡んだり、喧嘩吹っかけてばかりいたのは好きな子に意地悪したくなる…という例のあれだったのかもしれない。
こんな気持ち、今まで味わったことがないためよくわからないが、たぶんこれが“好き”というものなのだろう。
サスケが側にいるだけで心臓の動きが激しくなって。
顔が熱くなって。
もっと、触れてみたくなる。

「サスケ」
「あ?」
想像よりも直すべすべの肌に感激しつつ、頬に両手を添えてみた。
さすがに、次の行動を予測できたのか、ほんの少しだけ空気が硬くなる。
が、今さら逃しはしないし、気づいてしまったものを隠す気は毛頭ない。
ゆっくり合わせられた唇に、双方ともぱっちり開かれた眸。
「俺、お前のこと好きみたいなんだわ」
「…はあ?!」
「いやー、俺もこうくるとはね。たいした先もねえな、俺の人生」
ガキが何言ってんだ、と思う前に、自分を好きだと告白した上でたいした先もない人生だと言われるのもちょっとどうかと思う。
「まあでも気づいちまったもんはしょうがねえよなあ。で、お前は俺のことどう思ってんだよ?」
「どうって…」
「好きとか嫌いとかあるだろ」
「嫌いじゃねえよ」
「あっそ」
「たぶん好きだと思うが…」
「こういう好きじゃないって?」
再度、口づけとはいかないまでも唇をぺろりと舐められた。
「てめえな!」
「それくらいいいだろ、別に」
「どこが…」
でも、不思議とキバに、というより男に口づけをされたにも関わらず嫌だという気がしないのである。
「ま、気長待つか。俺たちまだ若いし」
「ああ」
そうだ、逃げようと思えば逃げられた隙などたくさんあっただろうに、そうしなかった自分の真意もその内わかってくるかもしれない。
「じゃ、さっさとやっちまおうぜ。終わったらメシでも食い行くか」
「メシか。そういえばハラ減ったな」
「だろ?ウチに食いきてもいいしよ、きっと母ちゃん喜ぶぜ」
「何でだよ」
「あのババァ、可愛いモンに目がないんだよ。あ、それは姉ちゃんもだな」
「うるせえな。可愛いって誰のこと言ってんだ」
「そんなのお前しかいねーだろうーが」
「殺すぞてめえっ!」
「へっ!てめえなんかに殺られて溜まっかよ!可愛いサスケちゃーんvvv」
勢いに任せ立ち上がったサスケを小馬鹿にするかのように、ぴょんと椅子から飛び跳ねたキバは教卓の上に着地。
舌を出して俺を捕まえられるもんならやってみろ、と、煽ってくるのだ。
その様が心底楽しそうで…、余計に腹が立ってくる。
「絶対ぇ殺す…」
「お前、案外鈍臭いんだから無理すんなよ!」
「黙れ!」

こんな、床を走り回るサスケと、机を跳ねるキバとの微笑ましい鬼ごっこは終わりなく続くかのように見えたのだが…。
「いいかげんにしろてめえキバ!!!」
「うげ!」
ほんの油断(下でちょこちょこ自分を追いかけて動く様が可愛くて、ついつい集中力が乱れてただけだが)が命取りとなって、サスケによって足首を捕えられてしまい。
そのまま床に引きずり倒されて、馬乗りにされた。
したたかに尻と後頭部を打ちつけたはずなのだが、下から見上げるサスケの勝ち誇った笑みが何とも扇情的で。
痛みなど感じる暇さえ無かった、のだ。
そう…。

「やっぱさー、気長に待つのやめたわ」
俺シカマルじゃねえし、と付け足されても、瞬時には理解不能だ。
「もっとこっちこいよ」
「は…?!」
くるりと開いた襟首をわし掴みにされたかと思ったら、一瞬にして背景が反転。
自分の置かれた状況にやっと気づくことができたのは時すでに遅し、組み敷かれた後である。
「おい、キバ…」
嫌な予感、なんて可愛いものではない。
ハーフパンツの隙間から不躾な指先が侵入を果たし、太ももを撫で上げられた。
「大丈夫だって。やったことなくても本能に任せときゃなんとかなるだろ」
「いや、そこを聞いてんじゃねえよ!」
このケダモノ!と圧し掛かってくる身体を押し返してみたところでびくともしないのがまたムカつく。
けれどそんなことに嫉妬している場合でもないのだ。

「やめろって言ってんだよ!てめえ!」
「またまた。そんな嫌でもねえんだろ、ぶっちゃけ」
「っ!」
図星だったのか、耳まで真っ赤に染まっている姿がまた可愛い。
「な?」
じゃあ、遠慮なくvとなめらかな首筋に顔を埋めたはいいけれど。
やはりそうは簡単にうちはサスケ様をいただく、という快挙は成し遂げられないらしい。
スッと被ってきた影によって視界が暗くなったかと認知するよりも先に、頭を掴まれ…というより握られた。



「お前ら…」
脱兎のごとく逃げようと試みるが、さすがは中忍。
飛び出す前に、しっかりと両肩を抑えられて動けないのである。

「げ…」
「てめえのせいだぞ…」
ひそひそと耳打ちし合う様に、イルカは益々キレかけて。
「何やってんだこらァ!!!」


雑用は、倍になって返ってきてしまった。










END




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