2005.12.17




いつもの場所
NO201:みんなで高校生になってみた。





うちはサスケ、17歳。
この、木の葉学園の二年生である。
剣道部に所属し、何故か来年生徒会の副会長を継ぐこととなってしまった身だ。
会長候補のシカマルが俺の言うことなら唯一聞くからとか何とかでこうなったが、奴が俺の言うことなど聞いたためしはない。
それならばいのの方がまだ良かっただろうと思う。
しかしいのもいので、自分は堂々と髪にハードブリーチかけてる分際で風紀委員という仕事につき、まるで生きがいのように校則違反者を捕まえては罰を与えているのだから、きっと奴なりに色々と忙しいのだ。
まあ、来年の生徒会には書記としてサクラもいるわけだし、シカマルがサボろうものなら簡単に力でねじ伏せてくれるはずだ。
いのとチアダンスなんかやってないで空手とか柔道で世界を目指したらどうだろうか。
ナルトにキバも、サッカーにバスケと毎日汗だらけになってグランドや体育館を駆けずり回っている。
あんなどうしようもないやつらでも来年の部長候補というのだから正直驚きだ。
そして、こいつらとの付き合い、もはや幼なじみというよりは腐れ縁も今年で17年目を迎えるのだった。





「サスケ…、ほんとに火校行くのかってばよ」
「ああ」
lその腐れ縁を15年目で打ち切ろうと目論んだ高校受験当日の朝。
本当は木学ではなく、ここらで一番の進学校である火校を目指していた。
「裏切り者…」
「お前がそんなやつだとは思わなかったよ」
「はあ?!だったらてめえら勉強して火校でもどこでも行けばいいだろうが」
「無茶言ってんじゃねえよ!」
「無茶って、オイ…」
キバは全然違うとキレるが、中身はナルトと大差ない。
それよりも、ここでこんな無駄話をしている暇はないのだ。
何しに来たのかは理解できないが、元々こいつらの行動は理解できないものだから、っていうかどうでもいいやとサスケが思考を自己完結に向かわせ、もう気にせず先に進もうと一歩を踏み出したところで。
「どうしても行くのね」
「いの…、お前まで何やってんだ」
「サクラと二人っきりにはさせないわよー!お前らやっちまえ!」
ビシッ!と人差し指を向けられたが早いか、両手両足を拘束されたが早いかわからなかった。
ただ、目の前でナルトの阿呆が何かを口に含み近づいてくる。
「な、んだよ…」
「サスケくんが悪いのよ!あたしたちを裏切るからー!」
「裏切ってねえし、てめナルト!こっちくんじゃねーよ!!!」
「早くしろよ!その役譲ってやったんだからよ!」
「サスケちゃーん、はい、お薬飲みまちょうねー」
無理やり口を開けさせようとするキバの指を食い千切ろうにもギリギリ届かない。
「キバ…!」
「お前が悪いんだぜ、覚悟決めろや」
「なっ!?」
突然唇を押し付けられたかと思えば、相変わらず無礼なナルトの舌が歯列を割り込み、口内に生温かくなった錠剤を置いて出て行こうとする。
反射的に軟体物の方を押しのけようとしてしまい、結果、喉の奥まで転がった丸いものは食道へと落ちていった。
「うっ…」
「よーし、上手くいったようだな」
ほぼ同時に、がくん、と両足が地面に落ちる。
「おおー!さすがいの。超即効性だってばよ」
「即効じゃなきゃ意味でしょ」
「お、お前ら、何を…」
「わかってんだろ、シビレ薬だよ」
「だって火校なんか受けさせたくないんだもの」
「仕方ないってばよ」
「ぶっ、殺す…」
とは言うものの、痺れは本当に良く効いてくれた。
全身がまったく言うことを聞いてくれないままに、ナルトに憎たらしくも軽々と担ぎ上げられる。
「じゃ、俺持って帰るってばよ」
「俺らも消えたほうが良さそうだな」
「おう」
早朝、目撃者なし。
間違いなくコレは犯罪だ。

目覚めた時、横で幸せに眠るナルトがいて、時計の針はとっくに昼過ぎを指していて。
「サスケくーん!どこよー!ギャー!!!」
ものすごい形相で叫んでいるサクラの夢を見ていた。





当時は散々奴らを締め上げたりもしたが、今となってはあそこまでするかという呆れはあっても恨む気などない。
当時の担任だったイルカ先生に散々説得されたにも関わらず、火校を蹴って木学に進学を決めたサクラは未だ多少の恨みが残ってるかもしれないが…。
「そういえばサスケくん、保健の先生が変わるみたいよ」
「ああ、結婚して辞めるっつってたな」
「そうなのよー、結婚なんてうらやましいなあ」
「その代わりはいつ来るんだ」
「明日っていってたかな。それが男の先生らしくてさあ、普通共学の高校に男の保健医なんて置く?!」
なんかいやらしいわよ、ロリコンかしら、とまだ見ぬ人物に対して結構ひどいことを言ってくれる。
放課後の教室で、間近に控えた修学旅行のしおりを作成していたが、どうにも飽きてきた。
自然と手の動きも緩慢になってくる。
「男の保健医かよ、碌なモンじゃねえな」
保健室=白衣のセクシー美女。
という構図が健全な男子の中ではセオリーだろう。
「何?何か今いやらしいこと考えてなかった?!」
「別に」
「嘘!」
「うるせーよ、お前」
ナルトたちを簡単に吹っ飛ばすような馬鹿力を生み出すとは到底思えないほどのか細い手首を掴み、身体ごと引き寄せた。
けれど唇が触れ合う寸でのところで、捕まえておかなかった反対の手のひらに顔面をおさえられてしまう。
好きだ好きだ言う割に、大事なところでいつもこうだ。
「サクラ」
重い溜息一つ吐いて、その名を呼んでみる。
「ダメよ、サスケくんがほんとにあたしだけを見てくれるまでは」
「見てるって」
「ダメです」

「サースーケー!腹減ったってばよー!何か食い行こうぜー!」
ガラッと教室の扉が開かれたかと思えば、そのままの勢いで飛びついてくるナルト。
いつものことだが汗臭さ全開である。
「サスケーサスケーサスケー」
「うるせえ!臭い!近寄んな!」
「サスケはいつもいい匂いするってばよ」
ぶちゅーっと首筋に吸い付かれ、全身に鳥肌が立った。
それから、冷たい視線の先、サクラと目が合う。
「それがダメ」
「………」
もっともな意見だということくらい、わかってる。
「いって!」
「いいかげん離せこの馬鹿!」
割り切れなかった部分はナルトの頭で消化した。










「あ〜、サスケくんおっそーい!」
「あ!シカマルてめ、それ俺が取っといたから揚げだっつの!」
「知るか」
もうでき上がってしまっているそのテーブルに呼ばれ、待ちかねたとばかりにいのにメニューを手渡される。
中学時代から集合場と化していたファミレス。
すでに見慣れ過ぎたメニューから、適当に目に止まったものを注文していった。
「そういえば、サスケくんのお兄さんが教育実習でうちに来るって本当?」
美術部の顧問が、美大からの実習生を来週から迎えると。
それがサスケの兄だと、ヒナタは言うのだ。
「…は?俺聞いてねえよ?」
「マジ?イタチ兄ちゃん来んの…?」
「うえ…、俺ぶっちゃけ苦手ー」
おっかねえんだもんよ、とサスケを除く男子陣は渋い顔を見合わせて頷く。
「あら、優しいじゃない」
「ねえー」
ただ、恋バナになると暴走してしまうため、サクラたちも軽く五時間くらい片思いの相手へのノロケ話に付き合わされたことは数回あった。
「でも美大に行ってたんだね、私知らなかった」
「イタチお兄さんあんまり自分のこと話さないし」
「例の相手のこと以外はねー」
それにしても、イタチという人物はさすがはサスケの兄、というかで、ものすごい整った顔をしている。
サスケを美少年というなればイタチは美少女といった感じだ。
間違いなく男だけれど。
「俺やだってばよー、だって部活だけ出てくんじゃねえんだろ?」
「そりゃそうだろ、普通に授業でも教えにくんじゃねえの」
「数学とかじゃなかっただけ俺は良かったよ」
週に一度しかない美術でまだ。
「ああ〜でもいつもみたいに適当な絵描いたら絶対えぶたれる!」
美人で、強くて、強烈なまでに暴力的。
その上弟への溺愛ぶりは自他共に認めざるを得ない。

「サスケくん、ほんとに聞いてなかったの?」
「聞いてない」
兄のことは好きだが、かなりのトラブルメーカーでもあるのだ。
何だか、嫌な予感がする。
「サプライズとか?」
「サスケ〜!びっくりしただろ〜!って、朝礼のとき抱き締められるとか?」
やりそうだ…。
ものすごく。
つうかそんなサプライズいらないし。
「悪い、俺帰るわ」
「え!まさか今日って兄ちゃん帰ってくんの?」
「今日はバイトじゃない」
「ゲー!今日ミコトちゃんのメシ食い行こうと思ってたのにー!」
「人の母親ちゃんづけで呼ぶんじゃねえよ!」
「あー…月曜からマジ兄ちゃん来んのかよ…」
「行きたくねえ…」
一度三人がかりで勝負に挑んだこともあったが、まさに瞬殺された。





注文した料理も碌に手をつけず、帰宅して。
そのまま玄関に正座し、兄の帰りを待つ。
どんな経緯だかは知らないが、大学に進学したと同時にキャバクラでバイトを始めた。
当時はバーテンか何かをやっているのだろうと思っていたが普通に接客をしているらしい。
突っ込みたいところは多々あったが、あの世界のことはよく知らないし放っておくことにした。
母とドレスを選んでいるときの嬉しそうな二人の姿は微妙だが、二人が楽しいならそれでいいと、きっと隣に立つ父も思っているのだろう。

「ただいま」
父の帰宅を経て小一時間が過ぎた頃、やっと扉がギィ…、と音を立て開き、待ちかねた人物が姿を現した。
「?どうしたんだサスケ」
それはそうだろう、朝帰りの夫を待つ妻じゃないんだから、弟が玄関に正座していたらそれは驚くというもの。
「兄さん、ちょっとそこに座って」
「ここに?!」
俺だけ床下…、と小さく呟きながらも素直に今脱いだ靴の上へと正座する。
「兄さん、何か俺に言うことあるよね」
「…え?」
兄の、ちょっとだけ引き攣った表情は見逃さなかった。
「わかってんだよ!ていうか何でうちの学校?!兄さん火校だったろ?!」
「お前は俺と一緒じゃ嫌なのか!」
「何で言ってくれなかったんだって言ってんだよ!」
「それは…」
サプライズで…、と。
抱き締めたかったから云々まで、あいつらの予想を裏切ることはなかった。
さすが、長い付き合いだけあって兄のことまでよく分かっている。
「じゃあなんで木学?普通実習って出身校に行くもんなんだろ?」
「うーん、ちょっと目当てがあってな」
「目当て、ってまさか…」
「お前、保健医が変わるってのは知ってるか」
「ああ、それはサクラに聞いた」
「その人っていうのが…!」
カーッと成人を迎えた大の男が頬を染め、突っ込みといかむしろもうはり手的な一撃を鳩尾に喰らった。
「げほ…」
「ということなんだ、よろしくなサスケ」
嬉しそうに、そういえばここ暫く異様に機嫌が良かったのはこのためだったのか。
しかし、例の片思いの相手というのがあの噂として聞いた男の保健医とは。
健全な共学の高校で、教育上宜しくないことをしでかさなければいいが…。
心配はただもうそこである。
実習自体に関しての心配よりも、むしろそこ。

「ほんとにくんのか…。」
兄の実習中に修学旅行があり、学祭があるなんて、もう苛めだ。

「きっと初日は一緒に教壇に上がって挨拶だな」
俺のこと覚えててくれてるだろうか、席はやはり隣だろうか、なんて鏡を見ながら肌のキメを確認しているがそんなこと本当にどうでもいい。
バイト先で客だったというその男に関しては名前しか知らないが、話を聞く限りではどうしようもないダメ男であった。
兄が付き合ってくれと申し出たときは二つ返事でOKだったらしいのに結婚を前提でと付け足したばかりに、それを境としてもう二度と店に顔を出さなくなったという。
さらに自宅まで押しかけて軽くストーカー行為までしてしまったものだから携帯を番号ごと変え、引越し、音信普通となったらしい。
まあ、当然といえば当然なのだろうけれど。
きっとその消息を、やっとの思いで掴んだのだ。


「兄が困ったときは助けるように」
「はあ…」



ナルトにキバにシカマルにいのにサクラ。
ただでさえ問題を抱えながらの高校生活に、また一つ大きな重荷を背負うことになったサスケであった。










CONTINUE




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