2004.3.28:Happy Birthday SAKURA
ハルウララ 「ごめんなサクラ、お前の誕生日だってのに…」 そう、今日は3月28日。 わたし、春野サクラの誕生日。 外ではわたしの名前にも付けられた、大好きな桜の花がもう満開になってお祝いしてくれているみたい。 それなのに。 「いいのよ、無理しないで寝てて」 サスケくんと二人っきりでお花見する約束も取り付けておいたのに、昨日ナルトのバカと揉み合って川に落ちたサスケくんはこの有様。 めずらしく、こんな高熱を出して弱ってる。 また、あのバカは何ともないところがまたムカつくのよね。 「そうもいかねえだろ」 「いいの、わたしはサスケくんの看病してるだけで十分幸せなんだから!それに誰も来ないようにしてくれてるんでしょ?」 「風邪なんかひいたこと、あいつらに言ってないだけだ」 「お陰で二人っきりでいられるわ」 「サクラ、くっつくなうつるぞ」 「だーめ」 起き上がってきた身体を再びベッドに押し戻して、額を冷やすタオルを取り替えてやった。 サスケは強がってはいるものの、だんだん息づかいも荒くなってきたような気がする。 薬はさっき飲んだから、あとは食事なのだけれど。 こういうときこそ辛くともしっかり食べないと、病気というものは良くならない。 「サスケくん、何か食べれそうなものない?」 「いらねえ」 「それは却下!わたし何か作るから、ちょっと買い物に…」 え? 「いいから」 ここにいろ、と熱っぽい視線で、最後の方はひどくか細い声で。 サスケが立ち上がろうとしたサクラの手首を掴んでいる。 あの、サスケが。 「サスケくん…」 キャー! 可愛い、可愛いわサスケくん!!! これだから悪い虫が付いちゃうのよ、すぐに…。 「わかった、あるもので何とかするわね。じゃあサスケくんはもうちょっと休んでて下さい」 「ああ…」 安心したのか、ゆっくり目を閉じたサスケの額にキス…、はまだできないので額をぶつけて体温を確かめてみる。 やはり、まだかなり熱い。 それに苦しそう…、早くなんとかしないと。 取り敢えずは食事だ、と額を離そうとした瞬間、変態がよりにも寄って首筋に付けてくれた三つ巴の呪印が光ったような…。 「な、何?!」 気がした瞬間はもう視界が崩れていって、ひどい頭痛に襲われていた。 それで、意識が戻った時にはこうなっていたのである。 「うわっ!やだわたし寝ちゃってたの?!」 いくらサスケくんの上が気持ちいいからって!なんて、静かな寝息が聞こえ始めたその身体の頬を突付いてみたら、何だかいつもよりやわらかかったような気がした。 それに加え、自分の声も何だか変ではないか? 「あら…?」 そう、寝ているのは自分。 大股開いて、下品な格好で床の上に座っているのがサスケ。 けれどその中に入っているのは自分で…。 「ちょ、ちょっと何なのよ…。これも術なわけ?!」 こんな時に、こんな趣味の悪い術など本気で勘弁して欲しい。 「う…ん」 それでも、こんな悪戯をされているなどと露ほどにも知らないサスケは眠ったまま、苦しそうな吐息を洩らしている。 サクラの身体の中に入ったからといって、病が治ったというわけではないのだ。 「えーっと…、と、取り合えず、ご飯よね」 もうなるべくこの状況のことを考えないようにと割り切って、うちは宅の冷蔵庫を開けてみる。 が、 「………」 それはもう見事に、トマトしか入っていない。 さらに残念なことに、お粥でも作ろうかとしていた米も切れている。 サスケも今は眠ってくれているし、やはり当初の予定通り買出しに行ってこようと思った。 ごめんね、ちょっと行ってきます。 それにしても、こんなことになってちゃんと元に戻れるのだろうか。 もし、サスケがトイレに行きたくなったら…。 汗が気持ち悪くて、お風呂に入ろうなんてしたら…。 「い、イヤー!!!!!ど、どうしよう!!!」 そんなこと、まだ早い!などと、自分だって同じ立場だろうに一人その場に蹲って悶えてしまう。 「あ、サスケだ。おーい!サスケェー!!!」 「?!」 誰かしら、なんて思う暇もなく、この能天気な声を聞けば後ろからでも誰かなんて容易に想像できた。 こういう場合、どうすれば良いのだろうか。 サスケだったら無視する? 「なーにやってんだってばよ!お前に見せたいもんがあんだよ、ちょっとこっち来いって!」 「ちょっ!ナル…」 強引に手首を掴まれ、相変わらず細っこいなどと言われて、ナルトに絡まれては怒っているサスケの気持ちが少しわかったような気がした。 カンカンカンと安っぽい金属質な階段を上り、連れ込まれたのはナルトの家で。 殺風景な割にごちゃごちゃとした部屋の真ん中で、どこからか拾ってきたのか、ダンボールの中で子猫が自分の尻尾にじゃれついている。 「わあ!可愛い」 「だろォ?真っ黒なんだってばよ、コイツ」 「ふふ、くすぐったーい」 「?!」 抱き上げてみれば、ゴロゴロと喉を鳴らしながら鼻の頭を舐めてくるのだ。 「やめてってばも〜!」 すっかり、自分がサスケであることを忘れて、子猫と一緒になってじゃれ合っていたから、ナルトの視線がおかしくなってきたことなど、まったく気が付かなくて。 改めて、忍者失格だとこの時嫌というほど思い知った。 「サスケ…」 「あはは、やめてよ〜!」 「サスケェ!!!」 「っうわ!びっくりした」 危ない危ない。 忘れてたけどわたし、今サスケくんなんだわ…。 「サスケ…、どうしちゃったんだ、お前」 子猫ごと、いつになく真剣な面持ちでナルトが抱き締めてくる。 え?ナルトが抱きしめてくるって、わたしナルトに抱き締められてるってこと?! 「ちょ、やめろナルト!!!」 「サスケ、さっきの可愛かったってばよ」 もう俺、我慢できない、などとわけのわからないことを言うのは勝手だが、この血走った青い目といい、この押し迫ってくるシチュエーションといい。 まさか。 「サスケ…」 「や、やめて…」 ぷちゅ、と続いてやわらかい感触。 「イヤーーーーー!!!何すんのよ!最っ低よこの変態!!!!!」 無礼にも舌まで伸ばしてきたその頬に思い切り平手打ちを食らわせ、不意の攻撃だったのかよろけた身体をこれまた思い切り突き飛ばす。 何やら背後でものすごく鈍い衝突音が聞こえてきたが、自業自得だ。 そのまま子猫を抱えて、逃げ出していた。 「信じらんない、あのバカ!サスケくんとだってまだしたことないのにキ、キスなんて…」 思い出したら感触まで蘇ってしまい、頭から振り飛ばす。 「もう、イヤ…うっ!う…」 あまりの情けなさに、涙まで流れてきた。 益々もって、情けない。 「うっ、うっ…、サスケくん…」 「あれ〜?サスケ?何やってんのこんなとこで」 涙と鼻水で、ぐしゃぐしゃになったままついうっかり振り向いてしまったが、声をかけてきた人物はめずらしくも目を丸くして驚いている。 それはそうだろう、サスケの泣いた姿など、拝見できるのはナルトとの罰ゲームに負けてわさび寿司を無理矢理食べさせられたときくらいだ。 「サスケ、どうしちゃったのよ」 「何でもない。花粉症になっただけだ」 「花粉症って、桜の?」 「………」 自分で言っておきながら、サクラの花粉症となると何だか同意したくない気持ちでいっぱいである。 なるべく、サスケらしく、と。 ほとんどをマスクと額当てで隠されたその胡散臭い顔を睨みつけ、踵を返し、さっさとスーパーに向かうべく歩を進めた。 はずであったのに、ふわりと身体が浮き上がり、目前に迫った上司の顔に、自分が抱き上げられたのだろうことを知る嵌めになる。 「何でもないじゃないでしょ。泣いてたワケを言ってみな」 「だから何でもないって」 「何でもなくて泣くような子じゃないでしょーが」 「うるせえな!もう下ろせよ!」 このままでは見抜かれてしまいそうで。 そうなったら間違いなく足はサスケ宅に向かってしまう。 せっかく今、やっと気持ち良さそうに寝てくれているところなのだ。 本格的にカカシの腕の中、もがき出したら居心地が悪くなったのだろう、子猫がするりと逃げ出して、上司のベストによじ登ってゆく。 「猫?」 「あ、うん。ナルトが拾ってきたんだけど」 「綺麗な黒毛で、まるでお前みたいだね」 「え…?」 何て事もない科白だったのに、まるで告白されたかのように不覚ながらもドキッとしてしまった。 だって、こんな突然マスクとって真面目な顔するなんて卑怯よ…。 そう、そうよ! 先生のマスク取ったところなんて初めて見た。 「サスケ、俺じゃ頼りになんないのかもしれないけどさ、お前の支えになりたいんだよ。これってどいうことかわかるでしょ?」 「カカシ先生…」 「?!」 その、あからさまに嬉しそうな表情へと変わったのを見て、またやってしまったと慌てて口を抑えるも時すでに遅し。 本日二度目。 また自分はサスケ以外の男に抱き締められている。 「サスケ…、とうとう俺のこと、先生って呼んでくれたんだ」 「今のは間違ったんだ」 それはもう、本当です。 「間違って先生付けないでしょー!普通」 ナルトと違って、この人は大人。 だからなのだろうか、この抱き締め方にいやらしさを感じるのは。 さわさわと腰から尻へと指先が降りていって、撫でられてゆく。 今すぐにでも逃げ出す体勢は整っているのに、そんな一瞬の隙さえも与えてくれないのだ。 「いいかげん離せよ!」 この人本当にサスケ君の好きなんだな…、ってちょっとライバルとして認めてやろうかと思ったけど却下! こんないやらしい人にサスケくんは渡せな… 「そうやって睨まれるほど構いたくなっちゃうんだよね〜vvv」 ちゅ、なんて可愛いものではなく、むしろ唇に噛みつかれたかのようなこの感触。 舌さえも拒むことができず、未知なる領域に侵入されて。 「うっ!いやっ!離して!!!」 「って、ほんとにどうしちゃったのよサスケ。今日はそういうノリで俺を誘ってるのかな〜?」 「ば、馬鹿言ってんじゃ…!ち、ちょっとー!!!」 どさりと地面にそのまま下ろされたかと思ったら、信じられないことに人目もはばからず、そのまま圧し掛かってきてくれる。 首筋に埋もれた銀髪をわし掴み、 「いいかげんにしなさいよこのエロ教師!!!!!」 勢いにのせて、カカシの額めがけて頭突きを食らわせてやった。 「くっ…」 さすがに効いたのか、動きの止まった身体を押し退け、脱出には成功したものの。 サクラの受けた痛手は半端ない。 もしかして、これがサスケの日常だというのだろうか。 もう身も心もボロボロだけれど、買い出しには行かなくてはならないのだ。 サスケが自分を待っている。 目が覚めた時、自分がいなかったらまた不安にさせてしまう。 「取り合えず、お米だけでも…」 「米?米がどうかしたのかよ」 「?!」 たかが声をかけられただけで、必要以上に肩を震わせてくれた。 重傷だわ…。 「な、何だお前疲れきってんぜ?任務帰りかよ」 「あ…、まあ…」 「で、米は」 「米がなくなって、買いにきたんだけど」 途中で色々あったとは言いたくもない。 「また金がねえんだろ?うちの持ってけよ、すぐそこだから」 「キバ…」 ぐい、と強さは感じるのに優しい握り方、引き方で、連れて行かれるのは何だか心地よくて。 誰かに似てると思ったらそう、サスケととても似ている感じであった。 「ほら、持ってけよ」 キバのお母さんが詰めてくれたのだろう袋を渡されたら、今までが今までだっただけにまた涙がこぼれてきて。 いい年をして、大概自分も泣き虫である。 「米くらいで泣くことねえだろー。お前、昔っから泣き虫だよな」 「泣き虫?」 まさかわたしだってバレてるわけないわよね…。 泣き虫というのはサスケのことなのだろうか。 カカシだってめずらしく驚きを隠せないでいたというのに。 じっと顔を見つめていたら、照れくさそうに何だよ、と言われてしまう。 それから、キバの胸元から飛び移ってきた赤丸にペロペロと濡れた頬を舐められた。 「えへへ、しょっぱいでしょ?くすぐったいよ赤丸」 「いいよなあ、赤丸はよー」 反対側の頬を、やけに粘着質なものが涙の後を辿って、こめかみのところにキス。 「こんなこと普通にできちゃうもんな」 礼なら今度身体で…とか何とか聞こえてきたが。 最後まで言葉を発することは許さずに、鳩尾に拳をめり込ませていた。 「男って、男って…!」 米の入った袋はしっかりと握り締め、王子が待つ部屋への階段を上ってゆく。 玄関の扉を開ければ、ベッドの上、サクラの姿のまま、サスケはぼんやりと座っていた。 「サスケくん!」 「?」 サクラ、と名前を呼ぼうとして、その姿に驚愕したのか口を開いたまま固まってしまっている。 無理もない、玄関から入ってきたのは自分なのだから。 「サスケくん!サスケくん、うわーーーーー!!!」 飛びついてきたサクラの身体(?)を抱きとめ、何故だろう、生のまま袋詰されていた米がフワーっと床に散らばっていく様は結構綺麗なものである。 抱きついた、その目前でまたも呪印が同じように紫色に発光し、サスケと溶け合っていくような、不思議な感じがした。 「落ち着いたか?」 「うん…」 「お前が入ってきたとき、俺だったように見えたんだが…、気のせいだったのか」 「きっと寝起きだったせいよ」 「そうか」 いつの間にか顔色の戻っていたサスケに安心しても、涙はまだこぼれてくる。 「何があった」 それを親指の腹でぬぐってやり、不安に濡れる黄緑色の瞳を覗き見た。 「う、うっ…」 涙ながらに、 ナルトが カカシ先生が キバが とぽつりぽつりと話し出したサクラの手をしっかりと握りながら、反対側でしっかりと握られた拳は怒りに打ち震えていて。 「良く分かった」 「それからね、わたし。サスケくんがいつも疲れきった顔してる理由がわかったわ…」 「は?」 後に、それぞれに負傷したままの姿で頭上に?マークを浮かべられるだけ浮かべた三人がサスケの説教を静かに聞いている様を目撃することができた。 END |
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