2005.3.28:Happy Birthday SAKURA




SAKURA in WONDERLAND





「サスケく〜ん?ナルト〜?」

先ほどから有りっ丈の大声を出して呼びかけているにも関わらず、二人からは何の応答もないままである。
「もう、どこ行っちゃったのよ…」
いいかげん疲労も溜まってきたし、帰りたい。
これで最後にしようと辺りを見回せば、キラリと太陽に反射するものが視界に入ったような気がして。
まさかと思い、かけ寄ってみた。

「ナルト…!」
予想的中。
金色に反して影と同化していて見えなかったのか、サスケも隣にちゃんといて。
二人して、気持ち良さそうに眠っているのである。
「何なの!?人の気も知らないで!!!」
足元にあった少々多きめの石を顔面に投げつけてやろうかとも思ったが、このあまりにも幸せそうな寝顔を見せつけられてはそんな気も失せてくるというもの。
「まったく…いつまでたっても子どもなんだから」
溜息混じりにその場に座り込み、もちろんサスケとナルトの間に己の身体を滑り込ませる。
帰ろうかとも思ったがなんだかもったいない。

それしても、何かおかしいような気がする。
サスケが小川に珍しい魚がいると教えてくれて、覗き込んでいた。
本当だと伝えようと振り向いたときにはもう二人の姿が見えなくなっていたのだ。
そして、こんなところで眠っているなんてシカマルじゃあるまいし。
おかしい、おかしい、と。
サクラの第六感は正しく作動してはいたものの、襲いくる睡魔にはやはり勝てず。
性急にその身は犯されていった…。










サクラ。


サクラ。


何よ、今気持ちよく寝てるのよ。
サスケくんと添い寝なんかなかなかできないんだから放っといて!

「サクラ」
「もう!うるさいっ!!!」
耳元で何度も囁かれ、煩わしさと苛立ちにまかせ、勢いよく起き上がった。
そして、声の主を憎々しげに睨みつければ驚いたのか目を丸くして固まっている。
「うわ!サ、サスケくん!?」
まさか、それがサスケだったなんて。
しかもその忘れるはずもない声に気がつかないなんて!
どうも今日は調子が悪い。
「ごめんなさい。何か変な夢見ててそれで…」
ごにょごにょと消え入りそうな声での弁解を宥めるように、女から見ても本当に綺麗だと思う指先が髪を優しく撫でていった。
「こんなとこで寝てたら風邪ひくぞ」
「あ、うん」
そうね…、でも先に寝てたのはサスケくんよね。
それはそうと、思えばもう辺りも暗い。
ずいぶん寝入っていたようだ。
「やだ、もう帰んなきゃ」
「帰るって、これからパーティーだろ?お前も遅れないようにしろよ」
「…は?パーティー?」
「うわ!もうこんな時間かよ!悪い、俺はもう行くから!」
首にかけられたレトロな懐中時計を握りしめ、遅れないように来いよと何度も忠告しながらサスケは走り去っていってしまった。
揺れる耳と尻尾が可愛らしい。
まったく、悔しいほどああいったウサギシリーズが似合ってくれるのだから。
―――ウサギ?
時計といい、ウサギの耳といい尻尾といい。
そういえば変な王子様のような格好だったような気がする。
どうしちゃったのだろうか、あんな姿、無理矢理でも着ないサスケなのに。
ナルトや、ましてはカカシなんかに見つかったりなどしたら大変である。
「サスケくん待って!」
急いで立ち上がり、呼びかけるも返事はない。
何とかして追いかけないと。

思案していて、ふっと伏せた目線の先が桃色の群生を捕えた。
近寄れば、それはきのこのようである。
「何これ、うちの里にこんなの生えてたかしら」
薬草や毒草、ましては治療薬として重宝されるきのこに関しては木の葉でも指折りの知識を持つことは自負しているが、こんな桃色、他国でも聞いた事がない。
嫌な予感を憶え、あたりをぐるりと見渡せば。
案の定、見知らぬどこかの森に自分は立ち尽くしていた。





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





「も〜、やだ」
どれくらい歩いただろうか。
それでもわかったのはここが死の森でもないことくらいである。
知らない草花や生き物だらけで、頭がおかしくなってきそうだ。
でも、ここのどこかにサスケがいることは事実。
とにかく、探すしかない。

「パーティーがどうとか言ってたわよね。そんな賑やかな場所、近づけばわかると思うんだけど…」
サスケの口ぶりから、どうやら自分も招待されているように思われる。
「パーティーねえ、そんな予定あったかしら…。パーティー、パーティーでしょ…?」
「なーに?パーティーがどうしたって?」
突如、耳元に吹きかけられた生温かい吐息。
慌ててクナイを握りしめ、相手との距離を保ちつつ戦闘態勢に入った。
が、目の前の木の上にいるのは猫?じゃなくて…。
「いの!」
「はーい。こんなとこで何やってんのよサクラー」
「あんたこそ…!ってそれよりサスケくん見なかった?!はぐれちゃったのよ!」
「サスケくんならとっくに式に向かったわよ」
「式?!それでどっちに行ったの?」
「教えてあげてもいいけどー、あんたまさか行く気?そんなボロで行ったら女王様に殺されるわよー」
あははと嬉しそうに笑ういのに手持ちの武器を投げつけたのだが。
「あーら、お菓子くれんの?ラッキー」
クナイだと思い込んで握りしめていたのはカラフルな棒キャンディーで。
受け取った相手は嬉しそうに包みを外している。
どうりで身軽なはずだ。
武器はおろかどんな時だって肌身離さず携帯していた医療パックすら見当たらない。
気持ち悪いほどの碧に透きとおった湖に映る己の姿は深紅のワンピースに、頭には大きな同色のリボンといったかなり恥ずかしい格好をしていた。
「なんなのよ、これ…」
「あたしもそろそろ行くけど、あんたもさっさとしなさいよ」
「あんたも行くの?!」
「あたりまえでしょー?じゃーね」
「待って!あたしも連れてってよ!!!」
「やーよ、あんたみたいのと行ったらあたしまで殺されかねないわ」
「なんですって!待ちなさいよいのー!」
飛びかかったものの指先は空を掠めるだけで、ぼんやりと輪郭から薄れていった猫の姿はもう木の上にはない。
「何よ、自分だって変な格好してるくせに!」
全身オレンジと紫の縞々のなんて悪趣味もいいところでなはいか。
お陰でもうどっちの方向から来たかもわからなくなってしまった。
右を見ても、左を見ても暗闇ばかりである。


「サスケくん…どこ行っちゃったのよ」
とぼとぼと、あてもなく歩む足元にぽうっとやわらか光が射したのはもう間もなくのことであった。





「何?」
手に提灯のような光を放つ花を持ち、大きなきのこの上に体育座りしている何とも寂しそうな人影。
恐る恐るその肩に手を添えれば、予想以上にビクリと身体を震わせてくれた。
「カカシ先生…?」
「サクラ!」
「っわ!」
突如抱きつかれ、まさかわんわん泣きつかれるとは思わなくて。
カカシに泣きつかれた、なんて演技でサスケにやっているのを冷ややかに傍観していたことしかない。
しかも、今回ばかりは本気だとしか思えないほどのものすごい勢いだ。
「サクラ!助けてくれ!」
「助けるって…」
「あ、あいつと結婚だなんて死んだも同然だ…、無理矢理結婚させられるくらいなら死んだ方がマシだよ…、てゆうか殺られる前に犯れ…ってそれやっちゃったからこんな目に合ってんじゃん俺ー!!!」
「ちょっ!少し落ち着きなさいよ!」
この上司が結婚だなんて話聞いたこともなかったし、突っ込みどころも満載なのだが。
いきなり「NO―――!」と叫びながら頭を掻き毟りられたらこちらの心臓だって堪ったものではない。
「カカシ先生、落ち着いて話を…」
「あーーーーー!!!見つけたってばよカカシ先生!!!」
何の前触れも、気配すらないままカカシが身を潜めていた藪からボコッと顔を突き出してきた人物は言うまでもなくナルトで。
あ、サクラちゃんもいたなどと言いながら全身黒いペンキだらけの洋服にべったりと貼りついてしまった木の葉たちを嬉しそうにはらっている。
カカシはといえばいずれ見つかることがわかっていたのか、ナルト相手にらしくもなくサクラを盾にし、どんどん縮こまっていくのだ。

「おーい!サスケー!カカシ先生ここにいるってばよー!」

ナルトの叫ぶ方角からガサガサと草木を分けて、獣道から姿を現したサスケはものすごい形相で近づいてくる。
やっと会えたのに、恐ろしくて声をかけられたものではない。
「カカシ…」
「………」
「カカシ!てめえ…」
「だ、だって!!!」
「女王様から逃げられるはずないってば。すっげー探してんぜ」
「お陰で俺まで駆り出されてんだ。さっさと行くぞ」
「…やだ」
「はあ?」
「も〜なんとか言ってよサクラ〜…」
「え?!あ、あたし?!」
そんなことを言われても、状況は呑み込めないし、だいたい女王様というのは誰なのか。
サスケのことかとも思ったがどうやらこの様子では違うらしい。
そんな捨てられた子犬みたいにキラキラ潤んだ瞳で見つめられたってどうしようもないではないか。
「え、え〜と、なんかよくわからないんだけど、カカシ先生嫌がってるみたいよ…?」
何故あたしが弁解を?!と、内なるサクラが脳裏で騒いでいる。
それも尤もだ。
「だからね…、えーっと…」
「まあ、いきなりだったからな」
「いきなりどころじゃないよ!俺、朝起きたら今日の夜結婚式するからとかいって…」
「でも俺らだって忙しかったんだぜ?女王様ったら庭中のユリの花黒く塗れとか言い出しちゃってさ〜。俺とシカマルとキバで全部塗ったんだってばよ」
「そうだ、てめえだけ我儘言ってんじゃねえよ」
「我儘って!何で好きでもない奴と結婚しなきゃなんないのよ!俺はサスケと結婚するって生まれたときから決めてたのに!!!」
「生まれたときからって何だ!」

「ていうか…、好きでもない奴ってまさかとは思いますが俺のことですか?」

「?!」
その時。
ゾクリというものすごい悪寒が背筋を這っていった。
いつからいたのだろう、皆これ以上ないというくらい顔色を真っ青にしているのだから、誰もその気配に気付いていなかったはずだ。
カカシに至っては「ヒィ…」と小さく洩らしたまま打ち震えている。
「カカシさん…」
にっこりと微笑んだ姿はさすがサスケ君のお兄さん。
手に持つ黒百合のウエディングブーケなんて霞んじゃうくらいの美しさ、なんだけど…。
「さ、行きましょうか」
怖い。
「兄さん、もう花火も上がるぜ?早くしないと」
「そうだな…」
「カカシ先生もさっさと立つってば!」
「ほら!」
サスケに腕を引かれ、「う〜」などと情けない呻き声を上げながらのろのろと立ち上がるカカシをちょっとだけ気の毒に見つめていたら、肩にひやりと冷たい感覚を憶えて。
綺麗にネイルされた指先から、瞳へと順に視線を移した。
すでにイタチは真っ黒なウエディングドレスに身を包まれている。
「サクラ、今日は有り難う。十分楽しんでいってくれ」
「い、いえそんな!私なんかお招きいただきありがとうございます」
ぺこりと下げた後頭部を、優しく撫でてくれた。
あまり関わったことはないが、やはり兄弟である。
そのやわらかさが、ひどくサスケの触れ方と酷似しているのだ。
「次はお前たちの式だな…、早く決めてやれよサスケ」


………。
………。
…え?!
お兄様、今なんと?


「に、兄さん!やめろよこんなとこで!」
「えー!!!サスケとサクラちゃん結婚すんの?!ずるいずるいー!!!」
「ずるいー!」
「カカシさん!!!」
「…ごめんなさい」
待って、もう一回仰って下さい、お兄様。
「何だサスケは顔真っ赤にして」
「兄さん!」
ああ、そんなに頬を赤らめて恥ずかしそうに見つめないでサスケくんーーー!
これは夢なの?!
もう夢でもいいわ。
春野サクラ、里一番の幸せ者です!



「うふふふ!」
「楽しそうね、サクラー」
一人悶えていたら、いつの間にか足元に屈んでいたいのが目の前に何かを差し出している。
「な、何よ」
それが何なのかは近すぎて見えないほどの距離で。
「あたしからのお祝い」
立て続けに現れる人物の気配にどれ一つとして気がつかないなんて、本当に忍者失格なんじゃないだろうか。
「お祝いって。何か怪しいわね、あんたがあたしとサスケくんのこと祝うわけがないじゃない」
「いいから開けてみなさいって!」
「ちょっ!」
受け取った、変な壷のようなものの蓋を勝手に取られ、途端もくもくと噴出してきた怪しげな煙。
その『素敵』なプレゼントを地面に投げつけたにも時すでに遅く、あたりは白に包まれ何も見えなくなっていた。


「いのー!出てきなさいよ!もう許さない!!!」
「サスケくんはあたしのもの。ついでにシカマルもあたしのものなのよ」
「なっ!」
何て傲慢な女!
「じゃーね。おやすみアリスちゃん」
「いの!待ちなさ…」










魂が抜かれるたような、不思議な感じがしたまでは憶えてるんだけど。
ここはどこ?





「サクラ」
ぱち!と音がするのではないかというくらいの勢いで開かれた大きな黄緑色の瞳いっぱいにはサスケの顔が映し出されている。
少し心配そうに覗き込んでくるその表情。
ゆっくり起き上がり、恐る恐る辺りに視線を移せば見慣れた里の、美しい小川が流れる原っぱの風景だった。
「お前寝すぎ」
「え…、そんなに寝てた?」
眉間に皺を寄せて頷く姿には思わず笑ってしまう。
「そういえばナルトは?」
「さっきイルカ先生がきて、ラーメン奢ってやるっつったらあいつ飛んでいきやがった」
「サスケくん待っててくれたんだ」
「ここに置いてけるわけねえだろ。お前が起きたら連れてこいって」
いくぞ、と腕を伸ばしてくるサスケ。
それに躊躇うことなく掴まった。


「さっきうなされてたけどなんか夢見てたのかよ」
「うーん、夢だったのかなあ…」
「なんだそりゃ」


一楽までの道中、手を繋ぎながらあの不可思議な夢の中身を話しました。
最後のアレは心にしまったままだったけれど。










END




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