2003.9.15:Happy Birthday KAKASHI
煉乳ドロップ 九月十五日。 壁にかけられたシンプルなデザインのカレンダーの、その一点だけが派手な赤で丸く囲われていた。 ひと月くらい前からずっと心待ちにしていた日が今日。 一年という周期の中で、自分のそれよりもずっとずっと大切な日なのである。 「カカシ、おめでとう〜vvv」 零時を知らせる鐘の音とともに、そう何度も呟きながら写真立ての中で恥ずかしそうに俯むいている最愛の者へと濃厚な口づけを贈っていた。 真夜中に、彼の就寝スタイルである怪しげな顔のついた変なナイトキャップをかぶり。自らの唾液でべたべたになった愛のメモリーに頬擦りしている人物こそが、木の葉の長である四代目火影様の実体であることなど、(ごく一部の人物を除いては)里の者は知る由もなかったのである…。 「カーカシ!今から俺んち来ない?」 「は?」 今日は任務もなくて、だからこそのんびり起床して軽いブランチを済ませた後、こうして忍術書片手にくつろいでいたわけなのだが。 窓枠にしゃがみ込んで部屋の中を覗いてくる人物が現れたからには、そうもいかないようである。 語尾こそ疑問系であっても、実際、命令と変わらないのだ。 と、いうより。 「今日はいかない」 「夜ご飯何食べよっか?カカシの好きなもの俺が作ってあげるよーvvv」 こちらの意見など、聞いちゃいないのだ。 伸ばしてくる腕からは逃れるはずがないことを充分に承知しているカカシは、あわてて今読んでいた忍術書数冊をかき集め、しっかりと懐に握りしめて。 「あんたってホント横暴だよな」 「ええ?!何でそんな難しい言葉知ってんのカカシ!俺わかんないよ」 「バーカ!!!」 「あはは、ひどいなあ、カカシはvvv」 そんなところが可愛いんだけど、と。 軽々と肩に担いだカカシの尻をひと撫でしてやる。 「あっ!」 思わず息を飲んでから、またやられたと思い切り頬を膨らましつつ黙り込んでしまったカカシであった…。 自宅に着くなりごろりと寝転がり、持ってきた忍術書を読み始めるカカシには少々苦笑を洩らしながらも、四代目はその足でキッチンへと向かう。 冷蔵庫が開き、流しの水が流れる音には興味をそそられた様で、いつの間にか書物へと向けられていた視線は遠く外れていた。 「カカシはもう昼食べてきちゃったんでしょ?」 「うん」 「じゃあ丁度いいかもね」 カカシがこのおやつを食べて、俺が昼飯(カカシ)をいただくと。 なんちゃって!などと一人で悦びに悶えていれば、至近距離で綺麗な銀色の瞳に見つめられていたことにようやく気づく。 「気味悪…」 「失敬な!カカシと一緒にいることが幸せでしょうがないの!俺は!」 「あ、そ」 そっけない返事をしていても、ほんのり桃色に染まった頬が照れていることを証明しているのに。 何事もなかったかのようにシンクを覗き込んでいる姿がまたどうしようもなく可愛いのである。 「もうホント、カカシはずるいなあ」 人をこんなに翻弄させて、とまだ子ども特有のやわらかい頬を突いてみても、カカシからは何の反応も返ってこなくて。 水晶のように銀色を輝かせて見つめる視線の先を数センチ追えば、笊に盛られた真っ赤な苺に釘づけになっていることがわかった。 「これね、一個、五十両もするんだよ」 「50…?!」 鼻先に持ってこられたこのたったひとつの苺が五十両? それがこんな適当な笊に食べきれないほど山盛りに詰まれている。 総額いくらなのか、数えるも嫌になった。 「はい、誕生日おめでとう、カカシ」 ちゅ、唇に押し当てられる苺は、さすが高級、というところなのか、近くに持ってこられただけで甘酸っぱくていい匂いが漂ってくる。 「誕生日…」 そういえば…、とカレンダーに視線を移して思い出した。 今日は自分がこの世に産まれてきた日。 「やっぱりね。忘れてると思ったんだ」 暖かい、普通の家庭に生まれていればこんな小さな子が自分の誕生日を忘れることなどなかっただろうに。 「そんなこと憶えてたって意味ないでしょ」 そう言って、じっと、合わせられた二つの瞳から、今にも涙が溢れてきそうに見えるのは錯覚ではないはず。 思わず、その小さな身体を抱き締めていた。 「意味がない?何言ってんのカカシ。カカシが生まれてきてくれなかったら俺はカカシと出会えてなかったんだから。俺はお前を生んでくれた人と、生まれてきてくれた日に感謝しなきゃ」 大好きだよ、と耳元に直接吹き込んで、恥ずかしそうに俯いている最愛の者の頬に両手を添えて。 そのまま上を向かせた。 「ね?」 「あんたは勝手だし、俺の意見なんて聞こうともしないし、セクハラだけど…」 好きだよ、と今度はカカシの方から四代目の首筋に絡みつく。 口だけではなく、なによりも大事に思われていることは、いつだって十分に良くわかっていた。 「ほら、苺食べよ。やっぱケーキじゃなきゃ誕生日って雰囲気出ないかなあ」 しかしケーキレベルまで甘くなると等の本人が食べられないのである。 「そんなことないよ」 渋い顔をして苺を見つめている四代目に苦笑を洩らしながら、カカシは彼の手の中で少々生温かくなったものを口に放り込んだ。 途端、適度な酸味と、自然の甘味が口内に広がり、それは確かに。 「美味い」 「ほんと?!よかったー」 と言って、なにやら紙袋をガサガサし始め。 「でもやっぱコレがないと!!!」 どこかの四次元ポケットからアイテムを取り出したかのような効果音が聞こえてきそうな勢いで、その手にしっかりと握り締められているのは、コンデンスミルクである。 赤と白のチューブに、ウシの絵がまた可愛く描かれているのだけれど。 「おい、そんなもんかけたら俺食えねえだろ」 ただでさえ、許容範囲ギリギリの甘さだというのに。 「だって、俺大好きなんだもん」 マヨラーよろしく、チューブの口を咥えて中身を吸われては、見てるこっちの胃がムカムカしてくる。 「うえ…」 「カカシも食べてみなよ。おいしいよ」 言いながら、苺にたっぷりと煉乳を絡ませ、ほら、と差し出された。 「俺はそのままでいい!」 「そんなこと言わないで」 何とか逃れようとも、カカシが後退した分だけ苺も攻めてくる。 「ああ!ほら垂れちゃうっ!」 「あんたが食えばいいだろ!」 とろーりと、練乳の重力に耐え切れなかった部分が白い糸を引き出したのを見て、つい反射的に口に入れてしまった。 丸ごと一つ。 「あ、ま…」 けれど苦い顔をして、なかなか咀嚼しきれないでいる教え子にニヤリと人の悪い笑みを浮かべるも、ある意味必死なカカシはまったくそれに気づいていないのだ。 「じゃ、俺も食べよーっと…」 いただきます、と大きく口を開けて噛みついたのは薄桃色を呈する唇で。 驚き、息を吸い込んだ隙間に舌を滑り込ませていく。 「んんっ!おい!」 逃げようにも顎はしっかりと固定されていて、あっという間に口内のものはほとんど四代目に持っていかれていた。 「ごちそーさまvvv」 「あんたな…」 唇の端から零れてきた透明の雫を手の甲で拭ってやり、恨めしそうに睨んでくるカカシの鼻先と、自分のものとをくっつける。 「なーに?カカシ」 どんなに睨んでこようとも、ここでもやはりこんなにも頬を朱に染めていてはまったく意味をなさないことに気づくのは一体いつになるのだろうか。 「…やっぱり、あんたなんて嫌いだ」 「そう?俺は今のでカカシを愛してること再確認しちゃったけどなー」 「フン!」 ぷにぷにと頬を抓んでくる指先を振り払って、新たな苺をほお張るも、やはり唇ごと持っていかれてしまう。 「ちょっと!!!」 自分で食えばいいだろ、と一粒を無理矢理四代目の唇に押しつければ、カカシが噛んでくれたやつじゃなきゃ嫌だなどと最低なワガママをほざいてくれた。 「なんでカカシが食べさせてくんないのさー!」 「食わせてやってんだろ!ほら、食え!」 しつこく押し続ければ苺の方が圧力に耐え切れなくなってきて、赤い汁が滲み出してきてしまう。 唇を濡らすそれにはやっと四代目も観念したのか、口に含み、ひどく不服そうな顔で咀嚼し始めた。 「一人で食えよ、バーカ」 「それはイ・ヤvvv」 勝った、と。 満足そうに微笑むのも束の間、カカシは一瞬でその表情引き攣らせていて。 拘束された手の平から、真っ赤な苺が転がり落ちる。 「あんた…」 「年に一度しかない誕生日なんだから。もっとイチャイチャしなきゃね!」 合わされた四代目の口内から流れ込んでくる苺味の半固形物は、妖しくくねる舌と同じ温度であった。 「カカシは何歳になったんだっけ」 「13」 「13歳っていったらもう大人だよね」 「子どもだろ」 間髪入れずにそう突っ込んでやる。 いつの間にか、ベッドの中に移動していて、しっかり身に纏っていた服は半裸に剥かれていた。 覆いかぶさってくる四代目の瞳は熱っぽく、普段の彼からは想像もできないほどに余裕を無くしているのがよくわかる。 「そ、それって、やっぱりまだダメだってこと?!」 「当たり前でしょ…」 「ひどいよ、俺をここまで誘っておいて」 項垂れてはいるものの、手に握られたコンデンスミルクのチューブから中身が数滴糸を引きながらカカシめがけて降ってくるのだ。 だいたい誘ってないし、と言いたいけれど。 下手に何か言うと本当に食われそうな勢いなので利口な子、カカシはその科白を喉元まで呑み込んでおいた。 「あーあ、早くカカシにこういうことしたいのに…」 白く汚れた上半身をじっとりと見つめながら、欲情に満ち溢れた溜息を吐き出して。 それからねっとりと甘い汚れを自らの舌を使って綺麗にしていく。 「はあ…」 「………」 何だか、ここまで落ち込まれてはこちらの方が悪いことをしているみたいではないか。 いい大人が泣きそうな顔でチューブを咥えているのもどうかとカカシは思う。 というか、唾液でたっぷりと濡らされた乳首をそう何度も摘まんだり弾いたりされていては…。 「せんせー、俺までおかしくなってきちゃうから…」 「だって、それが目的だし」 優しく、唇を啄ばまれてから再度訪ねられる。 「やっぱりダメ?」 多少ぎこちなくはなったものの、カカシはしっかりと頷いてお断りした。 「うわーん!!!」 途端、息が詰まるほどに抱き締められ、耳元でされた大泣きには鼓膜が破れそうになる。 「あーもう、うるさい!」 誰もずっとだなんて言ってないでしょ、と盛大にうんざりとした吐息と共に小さく呟いて。 「へっ?!それって…」 鼻水まで垂らし、わずかな希望に藁をも掴む思いなのだろう、捨てられた子犬のような瞳で見下ろしてくるのだ。 それにはカカシも思わず吹き出してしまう。 ここまで情けない顔をさせることができるのも、見ることができるのも自分だけ、ともなるとちょっとだけ嬉しいのも事実。 ベッドサイドに置かれたティッシュで汚れた鼻を拭ってやり、クセのある前髪を掻き上げて、露になった額をぐい、と引き寄せた。 「カ、カカシ?」 こつん、と額と額が重なり合う。 「一ヵ月後ね」 「………」 「それまでは何があっても、ダメ」 「ほ、ホントに?いいの?」 「あんたが嘘つくことはあっても俺が嘘ついたことなんてないだろ」 「う、うううううん!」 かなり動揺しているのか、武者震いなのか。 カカシの眉間の皺が刻々と深くなっていくように、四代目の震えは止まらない。 「俺幸せだよカカシ!最高の誕生日プレゼントだよ!!!」 「だから今日は俺の誕生日だって…」 そうなのだ、何故こっちが妥協し、この身を贈らなければならないのか。 「えへっ!楽しみだねー、一ヵ月後vvv」 「アッ!」 すっかり硬度を増した何かが腰に触れたかと思ったら、そのまま下降し、ぐりぐりと股間に押し付けられていて。 「コラ!今はダメだってば!」 「違うよ、カカシに覚悟しといてもらおうかと思って」 当日イキナリでびっくりされて逃げられちゃったら困るじゃない、と自分で言うだけのことはある。 「やっぱりあんたなんか…」 服越しでも充分わかる、その太さと大きさに。 ちょっとだけ先のことが恐ろしくなったカカシであった。 END |
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