2003.6.26




ImitationKitty





「ってことで、テストね。明日」
「「「は?!」」」

山菜摘みなどとカカシの趣味なのではないかと疑いたくもなるわけのわからない任務の後で。
一日山に篭っていたため泥だらけになった身体を叩き、さて帰るかと足を帰路に向けた瞬間。
思いもよらない上司の科白に三人がほぼ同時に振り返れば、夕日を背にいつもの人好きのする笑みを浮かべていた。


「ちょっと!いきなり何言ってんのよ先生!そんな話聞いてないわよ?!」
ポカンと口を開けて呆気に取られたままのナルトとサスケは放っておき、サクラは喰ってかかる。
「いや、俺も今初めて言ったんだし。ま!がんばって」
忍者たるもの、術だけじゃなく学問においても秀でてないとね。
と、最もなことを言ってくれるのだ。
「でも、普通テストって言ったらもうちょっと前々から準備期間とかをくれるものじゃないの?」
「お前以外に準備期間を有効に使う奴がココにいると思うか?」
目を細めて覗き込んでくる銀色から逃れるように数歩下がって。
ちらりと二人を見やれば、今だボケっとしたまま突っ立っている。
「そうね…」
「でしょ?テストはペーパーね。アカデミーで習ったことからちょい発展した内容で。あ、言っとくけど三人とも80点以上取らなかった場合は全員に罰任務が待ってるから。じゃ、そーゆーことで、がんばれよ」
「あっ!ちょ、ちょっと!」

一方的にそう一気に言い放って、カカシは大袈裟に木の葉を撒き散らしながら消えてしまった。

「罰任務、だァ…?」
「冗談じゃないってばよ!カカシ先生の選んでくる罰任務だなんて絶対最悪!!!」
ドブ川のヘドロ掃除ならまだいい。
一日俺のペットになれだのと言わないとも限らないのだ。
わざわざ自分で里に報酬まで支払って、そういうことをするのだ、あの上忍は。

そうなったら、あたしとナルトに部屋の掃除なんかを押し付けて…。
サスケくんを…。
玩具のように…。
………させないわよ、カカシ先生。
ちょっとばかり妄想癖の進んだ内なるサクラがいつもの掛け声と共に拳を握る。

「いつもいつも!カカシ先生は勝手だってばよ!」
「まったくだ。何考えてんだアイツ!」
「そんなこと、もうどうだっていいのよ…」
背中に、やけにひんやりとしたオーラを感じるのは決して気のせいではない。
「サ、サクラちゃん?」

「今日は徹夜で特訓よ!寝かさないわよバカ二人!!!」
「「えっ?!」」


バッ!っと投げつけられたクナイが、ナルトとサスケの足元にめり込んでいた。










「やっぱ、無理だってばよ…」
「サクラ…」
午前零時、子どもたちはうちはの家に集まり、あれからずっとサクラ先生の講義を受けていたのだけれど…。
13歳にはかなり瞼が重くなってくる時間帯である。
しかも、特段学問が進んだ、というわけでもない。
わけのわからない言葉を聞きつづけていれば、さらに眠気も増すというものだ。

「どうして、こんな問題ができないのよ…、こ、こんなことじゃ、サ、サス、サスケくんが…」
アカデミーで習ってきたことすら綺麗サッパリ二人は忘れていて、発展どうのと言ってる場合ではないのである。
情けなくて、泣けてきた。
「俺がどうしたんだ?」
「カカシ先生が持って来る罰任務なんて、何が起こるかわからないのよ?サスケくんの貞操が心配で、あたし…」
「サクラ、お前…」
有り得なくもないが、相変わらずの妄想癖を突っ込もうとした所で、船を漕ぎ始めていたナルトがむくりと起き上がる。
何かを企んだ時にだけ見せる、凶悪な表情で。

「ちょっと待ってサクラちゃん…。いいこと思いついちゃったってばよ」
「何よ?」
「カカシ先生は、サスケに激弱だろ?だから、そこを突く」
「どうやって。俺は行かないぜ?」
苦虫を噛み潰したような顔をして、サスケがお断りの一言を吐く。
「お前は行かせらんないってばよ!!!絶対ぇ喰われる!!!」

?と顔を見合わせるサスケとサクラの目の前でお得意の印を結び、ナルトが変化してみせた。


「俺がこの姿でカカシ先生んとこ行って、テストの答え取ってきてやるってばよ!」
答えさえ覚えられれば、こっちの勝ちである。
「すごい…」
口を押さえて真っ赤になっているサクラと、
「…ちょっと上着短くねえか?」
別の意味で頬を桃色に染めているサスケが見つめる先には…。

真っ白い子猫ちゃんのコスチュームを来た、うちはサスケ…に化けているうずまきナルト。
セパレートタイプのそれは、ぬいぐるみ素材のモコモコ感で、サスケのセールスポイントである臍がばっちり露出されている。
それと、実際変化で生やした耳と尻尾で完璧であった。

「じゃ、ちょっと行ってくるってばよー!」
言いながら、ポーンと地面を蹴って窓の外へ飛び出していく。

闇夜に、白猫はよく映えていた。



「うふふ、ナルトの奴、うまくいくといいわねv」
「どうだかな…」
満足いくまで、その手に握りしめるカメラで写真に収めたのだろう。
一変してサクラはご機嫌になっていた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「カカシ…、いるか?」
コンコン、とドアをノックすると、求めてきた人物がいつも通りの顔を出す。
額当ては外されており、何故かはわからないがその場合変わりに写輪眼を持つ左目には眼帯が当てられているのだ。
普段危険な巻物がしまわれているベストは着ていないし。
よっしゃ、とナルトは内なるところでガッツポーズを決める。

「サスケ?どうしたのこんな夜中に。しかもそのカッコ」
言うが早いか、既に身体は抱き締められていた。
さすが、手が早いってばよ…。
カカシに抱き締められているなんてかなり気持ちの悪い状況故、ナルトは早々に腕の中から逃げ出して。

「ちょっと、寂しくなっただけだ…」
こうやって、恥ずかしそうに俯いたサスケが一番可愛いんだよなー♪
最も良く知っている者だからこそ、完璧な真似ができるというものだ。

ふふ、とナルトがほくそ笑んでいると、突然頭上から生温かいものが降ってきて。
雨かとそこにも降ってきた手の平を見つめてみたら真っ赤な血液だった。
鼻血かよ…。
たまに全身血だらけでカカシの元から怒りながら帰ってくるサスケの謎が、一つ解けたような気がする。
「ま、中に入れ」
「うん」
腰に添えられた手がムカつくが、答えのためだ。



台所に立ち、ココアを入れてくれいるカカシの後ろ姿を確認して、周囲を見渡してみる。
答え答え、と…。
テーブルに作りかけの問題とかが散らばってたらわかり易いのに、と思う。
来る気配を気づかれて、どこかに隠したんだろうか。

「ホラ、無糖ココアならいいんだろ」
「は?!無糖…」
ぽんと手元に置かれたのは冷たいアイスココア。
そうだった、サスケは甘いものが嫌いなのだ。
一口飲んではみるものの、甘くないココアなんて美味くもなんとない…。
「どうした、お前何か変だぞ?」
「だから、急に寂しくなったんだって、言ったろ?」

くらえ、お色気の術カカシ先生バージョン。
「あんたのこと考えてたら我慢できなくなって…」
モコモコのブルマみたいなパンツからすらりと伸びる太ももを強調するように、足を投げ出しつつ。
丁度中腰でいるカカシの股間めがけて飛びついてやった。
これで、また浴びる嵌めにはなるが鼻血を噴出して昇天するはず。

エビスや、三代目、イルカ先生だってこれで倒した。





自慢の術だったのに…。



「ふ〜ん。めずらしくご機嫌じゃないの、サスケくん〜vvv」
「…へ?」
同時にぐい、とほっぺたが何か硬いもので押された。
それは手でも、足でもなく…。

「まさか、俺以外の男にもそういうことやってんじゃないだろうね」
どうなのよ?と、その股間から生えたモノでぐりぐりと頬を突つかれて。
「特に、ナルトになんかやってたら、いくら温厚で優しい先生でも怒っちゃうよ?」
「な、何言ってんだよ。んなワケ、ねえだ…ろ」
気付かれてるんじゃ…、という一抹の恐怖が心を過ぎる。


「ま、何でもいいけど」
じゃ、行こうか、とふわりとナルトはその肩に抱き上げられた。
「ちょ!おい、カカシ!!!」
じたばた暴れる身体は上から押さえつけられ、静かにしろと言わんばかりに形の良い尻が撫でられる。
ついでに尻尾までをいじられたとき、自分で出しておきながらゾクリときた。


最悪。
だが、やはりサスケに行かせなくて良かったと心から思う。


「まったく、俺お前らのテスト問題徹夜で作ってて疲れてんのにな〜」
「そんならテスト止めりゃいいだろ」
「そうもいかないのよ」
「ぎゃ!」
どかっとベッドに放り投げられ、そのまま受身もろくに取れなかったナルトはごろごろ転がり反対側の床に落下してしまった。
「何やってんの」
手を伸ばし、くたくたになった尻尾をわし掴んでベッドに引き摺り上げる。
「痛えだろこのバカ!」
ただでさえ耳と尻尾は敏感なのだから勘弁して欲しいところだ。

ん…?
敏感???
肩に置かれたカカシの手が触れたところを始点に、鳥肌が全身を覆っていく。


「へえ、これホンモノなんだ。変化で出しったってワケ?」
「ま、まあな」
ピンと張る耳を揉まれ、中まで指を突っ込まれた。
おかしな悲鳴を上げてしまいそうで、必死に声を押し殺す。
「か〜わいいv」
一瞬の隙を突かれて、唇が重なり合った。
逃げようと後ろに下がろうにも尻尾がカカシに踏まれており、身体がびくともしない。
サスケとしてるときはあんなに幸せな気分になれるのに、何だ今は!
気持ち悪いってばよ!!!

カカシの舌も、口内に移される煙草の苦味も。
「ん、う!…離せってばこの変態!」
がつん!と、こちらからも頭突きで反撃に出てみた。

が、
「いってえな…、何すんのよ…」
額を押さえながら、俺を見下ろしてくるカカシ先生は。
サスケには絶対見せない、鬼畜面で。

再度、確信する。
絶対ぇ、バレてる。
っていうか、犯られる…。
………。



「サスケ!サクラちゃんごめん!!!俺やっぱり自分の身がかわいいってばよ…」
ふわふわの胸元を握り締めて。
やけに冷めた顔で自分を見つめているカカシと、向き直る。

「カカシ先生!俺はうずまきナルトだってばよー!ほら…!あ、あれ…?」
変化を解除しようとどんなに踏ん張っても、猫耳サスケから元の姿に戻れないのだ。
「な、何、何で?!」
「くっ…」
くぐもった笑いを洩らす、カカシの喉。
「お前はサスケなんだろ?」
「違うって!俺だよ、俺!カカシ先生!!!」
楽しそうに、眺めてくるカカシの目を見て、思う。
「カカシ先生、俺に何か術かけてんだろ…」
「さあ?」
「絶対そうだ!だって戻れねーもんよ俺!術解けってばこの変態教師ー!!!」

目の前に伸びてくる腕を避けようとしたのに、忘れてた。
身体の自由が利かないことを。
後頭部を掴んだ手が、俺をうつ伏せにベッドにねじ込む。
息苦しくて顔を上げた先には大きな鏡があって、俺が映っていた。
四つん這いにケツだけを上げているサスケの背後に、カカシ先生が立膝をついている。

ヤバイ。
だいたい、ベッドの前に鏡を置くってどうなんだ?





「こんの変態教師!鬼畜!やめろってばよー!!!」
「その言葉使い今すぐ直さねえと殺すぞ。サ・ス・ケくん」
「だーかーら俺はナルトだ!!!」
「最近ヤらさせてくんないのよね、アイツ」
当たり前だ、サド野郎!と鏡越しではなく実物を振り返った所で、口いっぱいにシーツを詰め込まれて。
「大声出すなよ、近所迷惑だから」
「え゛?!ぢょ、ぢょっど待…」
引き千切られんばかりにパンツを下ろされ、露出した尻に嫌な硬さのモノがあてがわれる。
「いくよ」
「し、死ぬ!!!」
ぐい、と体重がかけられたかと思ったら…。


ぎゃあああああ、痛ってえええええ!!!という、闇夜の静けさを劈くような悲鳴が、木の葉の里に鳴り響いたという…。










「ナルト、帰って来ないわね…」
時は特有の静けさを湛えてくれる、午前二時。
本来ならばそろそろナルトが答えを携えて帰ってくる頃だ。
「もう〜、何やってんのかしら。答えよ答え答え答え〜!」
「だいたい答えがあるのかどうか」
机をがたがた揺らしているサクラを見つめて、本物のサスケがぼそりと呟く。
「ちょっと考えてみればわかる。アイツが、テスト問題なんて前日に用意しておくタマか?」
「それ、言えてる…」
当時の自分たちは、そうとう眠かったのだと思われる。
暫し、沈黙が流れ。

「ナルト、大丈夫かな…」
「もう喰われてんじゃねえのか…」
「え?」
笑顔を一瞬で凍りつかせたサクラを横に、サスケはごろりと床に寝転んだ。
「サクラ。もう、寝るぞ」
うとうととしていたのだろう、すでに規則正しい吐息が聞こえてくる。
「そうよね、あたしも寝ちゃおっとv」
ナルトだって男の子なんだから大丈夫よね。
カカシ先生の一発や二発。
知らないけど。
それより、思ってみればせっかくの二人きりのチャンスの方が大切なのだ。

いそいそと押入れから大きなタオルケットを出してきて、サスケが冷えぬようかけてやる。
そしてそれに、自分ももぐり込んで。
「おやすみ、サスケくんvvv」
サクラもまた、大好きなサスケの胸元に鼻をすり寄せて、大好きなサスケの匂いに包まれたまま幸せな眠りについたのだった。










「…そんなに、くっついたらズルイって!ん〜サクラちゃん〜…」
もうすっかり強くなってきた朝の日差しが、顔面を容赦なく照らしてくれる。
「ああ〜、お前まぶしいってばよ…」
やめろよサスケ〜、と唇を窄めて枕に抱きつこうと寝返りを打った所で、雷が落ちたのではないかと思うほどの全身を襲う激痛に、気持ちよく漂っていた夢の狭間から一気に娑婆に戻された。
「ぐ、…あ…」
一瞬、息が詰まったぞ。
そういえば、いつの間にかはわからないが、元の姿に戻されてはいた。

「ああ、起きたの」

腰を押さえながら、声の主を睨みつける。

上半身裸で、ベッドサイドに腰かけて、朝の一服。
そしてそして、そんな俺を見て頬を赤らめ、恥ずかしそうにシーツに包まったままのあいつにこう決め科白。

「昨日は良かったぜ」

ってサスケにい・つ・か言ってやるのが俺の夢。
だってのに!!!
「何であんた…」
「なーんてね。俺が言うとでも思った?」
なワケないでしょうが、とカカシはだるそうに吸殻を灰皿に押しつけている。
「お前、ほんっとダメだね。変化の術だけは上手いかと思ってたけど、中身が全然なってないよ」
「どういう意味だってばよ…」
「色気もないし〜、可愛げもないし〜」
つらつらと並べ上げられる言葉に、武者震いが止まらない。

「それにお前、ヘタクソすぎ」
ぶちっと派手な音を立てて、元々なけなしだった理性の箍が弾け飛んだ。
「そんなヘタクソな俺に3回も犯ったのはどこの誰だってばよ!」
見ろよこのキスマークだらけ!!!と、胸をバシ!と叩いてみせる。
そこは一面、キスマークというより、ひどい痣だらけだ。

「だって、見た目はいちおうサスケだったし?」
あんなカッコ、絶対してくんないだろうしさ、とまたサイドテーブルに置かれた煙草に手を伸ばしている。
「けど俺は黒猫のが好みだったんだけどね」
「サスケは白だっての」
「黒だって」
「白!」
「クーロー」
「白白白白白ー!!!もう何でもいいからさっさと答え出せってばよこの変態教師ーーーーー!!!」
裸のまま、勢い良く立ち上がり、カカシの腕を引っ張るが。

「は?答え?」
「今日のテストのやつ!さっき問題作ってて徹夜だとか何とか言ってたやつ!」
ここまでひどい目に合ったのだから、もういいだろう。
さっさと出しやがれ、と。
向こうでサスケとサクラちゃんが俺を待ってるのだ。



「んなモンないよ」
「………は?」
「テストかあ、なんかめんどくさくなっちゃったな。やめようかな」
ナルトのせいで無駄な体力使っちゃったし。
なんて言いやがる鼻先をへし折ってやろうかと思ったのに、急に足元がフラついて。
後頭部から、床に転落した。
貧血、である。


「穢れ損だってばよ…」

予定どおり(?)テストは中止。
ナルトは一日半寝込んだという…。










END




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