2003.10.10:Happy Birthday NARUTO
Happy? Family Plan 「10月10日かあ。もうすぐだな…」 毎年、そう一生徒だけに特別な贈り物をすることができるはずもなく、(かといって生徒全員に買ってやれる余裕もない)一楽のラーメン、特盛りチャーシューなどを共に食べ、祝ってきたのだが。 今年はもうアカデミーを立派に卒業し、『忍者』としてがんばっているナルト。 何かを贈ってやりたいのだが、買ってやりたいものは山ほど有り、どれが最善のもなのかが、考えれば考えるほどだんだんわかならくなってくる。 「どうするかなあ…」 「ナルトの欲しいもの、そんなの決まってるじゃないですか」 「うあ?!」 突然、自分以外誰もいないはずの自宅の、カレンダーを見つめていたベッドの上で、耳元に熱い吐息混じりに囁かれたのだ。 肩も大袈裟に跳ね上がってしまうというものである。 「ナルトの望んでいることなんてたった一つですよー、イルカ先生」 今年は俺たちで力を合わせ、夢をかなえてあげようじゃないですか、と。 カカシは熱っぽい瞳でそう訴えかける。 「それって何なんですか…?」 しっかり握られていた両手をぐい、と引かれ、こう耳打ちされた。 「『 』ですよ」 「ナールト!誕生日おめでとう!」 はいこれ、プレゼント、と手渡されたのはリボンで可愛くラッピングが施された包みで。 軽くてやわらかい質感がした。 「あんた寝てるとき変な帽子かぶってるじゃない?だから帽子好きなのかと思って。サスケくんと選んだんだけど…」 一緒に渡したかった、とサクラも残念そうに呟いている。 そう、カカシ曰く、サスケは風邪をひいたため今日の任務は休み、ということらしいのだ。 「そっか…。でもありがとうってばよサクラちゃん!今開けていい?」 「もちろん!」 袋から取り出した帽子はナルトの瞳の色と同じ、綺麗な青空色のニット帽で。 興奮に頬を上気させながら、頭にずぼっとかぶってみる。 「どう?似合ってる…?」 「うん!すごくイイ感じよ!」 「あとで、サスケにも見せるってばよ」 「そうね。今日はサスケくんの看病、アンタに譲るわ」 でも抜け駆けは許さないわよ、と念を押されて抓まれた、泥で汚れた頬の痛みが何だか嬉しかった。 そのまま、二人はそれぞれ別々の帰路に着くことになったのだが、ナルトの心はどこかどんよりと曇ったままである。 今夜は、サスケが泊まりに来ると言っていたのに。 あいつのあの性格ならば、風邪くらいで任務を休むわけもなく…、そう、いつだってどんな高熱を出してもフラフラの身体を引きずって、サクラをはじめ自分やカカシにひどく心配をかけさせてくれるような奴なのだ。 「避けられてる、なんてことないよな」 確かに好きだとは言ってしまったけど、真っ赤になって驚きはしていたけど、嫌悪感は出していなかった、…と思う。 と、思いたい…。 取り合えず、家に戻ってみたらサスケが待ってたり、とか。 …いなかったらやっぱり見舞いに行ってみようかとか、何だかもやもやした気持ちが抑えられない。 「はあ〜、なんかヘコむってばよ」 好きな人と誕生日に会えないって、こんな寂しい思いをするものなのだ。 案外少女趣味だった自分に自嘲的な笑みを零し、自宅の鍵を開けようとしたのだが、ガチャリ、と逆にかけてしまったかのような音がする。 ドアノブを回してみても、やはり開かなかった。 「?何だ?」 素直に、再度鍵を開け、かけ忘れてきてしまったのだろうかと、納得のいかない様子で足を玄関に一歩踏み入れたその瞬間、ナルトの表情が一瞬で凍りつく。 「あ、おかえりー、息子」 持っているはずもないちゃぶ台に、和服で新聞を広げて座っているカカシ。 「あ、あんた何してるんだってばよ…」 人のうちに家具を持ち込んで…。 「な、なんだこれ!畳なんて俺敷ひいてねえぞ?!」 確か、数時間前の自宅はコンクリ剥き出しの床だったはずだ。 「なんか味気ないからさー、畳に変えちゃった」 いやらしいほどに分厚い財布を振って見せられ、金持ちの道楽にはほとほと愛想が尽きる。 「だいたい息子って…」 「母さん〜!母さん〜!息子が帰ってきたみたいですよー!」 まだ誰かいるのか、とうんざりした視線を声をかけられた先、キッチンの方に向ければ…。 「お、おかえり。ナルト」 「イ、イルカ先生ー!!!!?」 まさか、とは思ってはいたが本当にいたなんて。 不信感から、哀れみへとそう時間もかけられずに変わり、ナルトはイルカに縋りついた。 こちらも和装、まではいい。 しかしフリフリの真っ白いレースのエプロン、というのはどうだろう。 似合わな…、くもないが、やはりおかしいだろう。 誰の趣味かなんて丸わかりなこの状況に涙が出てきた。 「イルカ先生、こんなことしなくていいんだってばよ!」 「ナルト、大きくなったな…、誕生日、おめでとう」 ぎゅっと、抱き締められ、 「母さん、って呼んでいいんだぞ」 「は?」 耳元で優しく囁かれた幻聴(希望)。 「お父さんもいるよー」 「うるさい!だから灰を畳に落とすんじゃねえってば!!!」 だらしなく足を開き、ナルトお気に入りのマグカップを灰皿にしている男を怒鳴りつける。 「こら、ナルト。お父さんに向かって何て口の利き方だ」 「か、母さん…」 思わず母さんって呼んでしまうくらいに、ドキリとした何だかこの家族っぽい科白。 ちょっといい感じだと、楽しくなったりもするけれど。 「おいそこのガキ!ほら、これやるよ」 こんなことを言い出したのはコイツだろうに、何故こう雰囲気をブチ壊してくれるのだろうか。 ね、母さんvvvと側に寄ったイルカの肩を抱きながら、さっさと開けろと舌打ちしながら睨まれる。 「父さんと母さんとで一生懸命選んだんだ」 膝立ちとなった自分と同じくらい身の丈のある巨大な箱はどうも胡散臭いけれど。 中身から呻き声が聞こえてしまえば開けるしかあるまい。 サスケじゃありませんように、サスケじゃありませんようにブツブツと唱えつつ、焦りすべってしまう指先を叱咤する。 大きなリボンを解き、巨大な蓋を開けたそこにいたのは…。 やはり…。 「サ、サスケ…な、なんだってばこんな姿に…」 気を失っているのか、可愛く箱の底面に体育座りしたまま、ピクリとも動かないのである。 シャツは捲くれ上がり、覗く白い肌の所々に散らばっている赤い痣、白濁した液体が頬でそのまま半固化してしまっているということは、気を失ってからかけられた、ということを意味しているのだ。 そう、気を失ってまで…。 お陰で任務を『風邪』で休んだと『カカシ』が言っていた、納得のいかない理由も解明することができた。 「コラ、そこの変態教師…」 「いやあ、そんなに喜んでくれるなんて父さん嬉しいよ」 箱から抱き上げ、取り出して、その軽い身体を自分に凭れかけさせる。 「サスケ、しっかりするってばよ!」 サスケ、サスケと、何度か揺すってみたら、瞼がピクリと痙攣して、恐る恐る漆黒の瞳が開かれた。 「ナ、ナルト…、俺…」 「どうしたんだサスケ!そんなにボロボロになって!!!」 そのボロボロにしたのがそこで鼻歌歌ってるアンタの旦那だよ、と、これがイルカ先生でなかったら大声で突っ込んでいたところである。 かけ寄ってきたイルカ越しに、ナルトはカカシを睨みつけた。 「ゔ…、なんか、…あんまり憶えてないが朝任務に行こうとして…それで…」 そこで、空を彷徨っていた視線がにっこりと微笑むカカシとカチ合い、全てを思い出したようである。 「カ、カカシ!てめえっ!」 「あっ!サスケ!!!」 「だめだよ〜、大事なお嫁さんがそんな乱暴な言葉遣いしちゃ」 クナイを片手に飛び出した小柄な身体を巧みな動きで捕獲してしまい、ペロリと襟ぐりの大きく開いた首筋に舌を這わせて。 「これだよナルト君。誕生日おめでとう」 「…は?」 「カカシ先生はな、お前への誕生日プレゼントに悩む俺に協力してくれたんだ。お前の欲しがっているものを…」 こうやって、『家庭』というものを、と。 家庭、家族。 たしかにそれは、ナルトが無意識のうちにも、ずっと昔から切望していたもの。 いつか、自分で作り上げるしかないかと思っていたのに。 それをこう、大好きな先生たちと、大好きなサスケとが作り上げてくれた…。 そうとも知らず、ごめんなさい…、カカシ先生…。 「なんて俺が思うワケないってばよーーーーー!!!」 思い切り、ちゃぶ台をひっくり返そうとしたのに、どこまでも憎たらしい上司によって、暴れるサスケを膝に抱いたままであるにも関わらず、見事な反射神経で阻止される。 「母さん!ナルトが反抗期だ!」 ちゃぶ台の足を掴みながら、カカシ。 「ナ、ナルト!落ち着きなさい!」 何が不満なんだと、こちらもどこまでも天然の入った恩師が立ちはだかる。 「父さんがいて」 「母さんがいる」 「それにこんな里一番の美人な嫁貰って、何がそんなに不満なんだナルト!」 「母さんそんな傲慢な子に育てた憶えはないぞ!」 ちゃぶ台をひっくり返すのは諦めて、電話台ごとカカシに投げつけてやるつもりでいたのに、あまりの有り得ない展開に脱力感に襲われて。 もう、この程度の重量にすら、足も腕も耐えられない。 「アホだってばよ…、あんたら…」 嫁も、カカシはさておきイルカのノリには驚きを隠せない様子で、ひどく困惑した視線をナルトに送っていた。 「サスケ、こんなできの悪い息子だけど、ナルトのことよろしくね」 「え?あ、ああ」 ちょっと待て、なんだそれは。 プロポーズなのか?!ってなんでアンタが俺の代わりに言う。 「し、しかも流されてOKしてんじゃねえよ!」 「よかったなあ、ナルト、サスケ…」 母さんは嬉しい、と。 イルカはカカシの胸に凭れて泣いてしまう。 そこまではまあいいとして、ナルトが納得いかないのは右にはサスケ、左にはイルカを抱いて、カカシが幸せそうに双方のやわらかい頬を堪能していることなのだ。 「ん〜、サスケもイルカ先生もやっぱ可愛いなあ〜vvv」 「おい!やめろよくすぐってえな!」 「もう!離してくださいよ、カカシ先生!」 何だかそれが慣れたじゃれ合いのようで、結局蚊帳の外に放り出された気分がする。 が、ここで引き下がっては元の木阿弥なのだ。 「はいはいはい!どうでもいいけどサスケは返してもらうってばよ!」 「うあっ!」 愛する人を奪い取ろうとした手を伸ばすも、サスケの身体は軽々とカカシの頭上、という届かない位置に掲げられて。 代わりに、ムカつくほどすらりと筋の通った高い鼻を、触れる寸前まで近づけられた。 「な、なんだってばよ」 「お前さー、ちゃんとサスケ君を大切にできんだろうね?」 「あ…っ!当ったり前だろォーーーーー!!?」 「浮気なんかしたら承知しないよ」 「カカシ先生にだけは言われたくないってばよ、その科白…」 箱に詰めたのは自分のクセに、今さら出ししぶりしつつも下ろされたサスケを受け取り、急いで背中に隠す。 「残念ながらまだお前たちは結婚できる歳じゃない。よって先生たち公認の許嫁ということになるのだが…」 同棲ダメ。 婚前交渉ダメ。 しかし同性同士の結婚は有りらしい。 「わかったな?」 「えー?!」 「もう、イルカ先生は相変わらず硬いんだから。いいじゃないですか、勝手に結婚ごっこでもやらしときゃ」 ゴッコって…、とナルトの眉間に大量のしわ寄せが来ていた。 「で、でもカカシ先生…。倫理感というものが」 「そんなもの、忍びの世界にはあってないようなものでしょう?」 「そ、それはそうですけど」 「それに、ナルトのことなんかより、大事なのは今の俺たちのことじゃないですか」 ね?などと言いながらさり気なく肩に手を回し、さり気なく奥の部屋、ナルト宅のベッドルームへと誘っていく。 「カカシ先生…」 「イルカ先生…」 自然と、引力でも生じたかのように、触れ合う二人の唇に、思わず生唾を飲み込んでしまった。 「あいつら、人前でよくやるな」 「ホント、あそこまでオープンに慣れたら羨ましい…、って!そうじゃなくて!人んちのベッドで何するつもりだってばよっ?!」 「何ってナニよ。相変わらず勘の悪い子だねー」 「何だァ?!」 食ってかかろうとするナルトの上着の裾を引っ張って、サスケが止めに入る。 「いいじゃねえか。放っといてやれよ」 「で、でも」 ラブホテルならばいざ知らず、自分のベッドで他人にそういう行為をされ、その後就寝に使用するというのも何だか気持ち悪いではないか。 「だ、だってさ!」 「俺はお前といれるんならそれでいい」 「え、うえっ?!」 今度は、ナルトが壊れてしまうのではないかと思う程に真っ赤になっている。 「あ、そうだサスケ。ナルトじゃお前にモノ足りないと思うから、欲しくなったらいつでも俺んとこにおいで」 「何言ってんだってばよ!アンタ俺のオヤジなんだろ?!嫁に手出すな!」 「嫁に手出すことが義父の勤めでしょうが」 じゃあね、ばいばい、と。 言いたいことだけ吐き散らしたカカシはイルカの待つ寝室へと姿を消してしまうのだ。 閉ざされた襖に、無言で座布団を投げつけようとした手首をやんわりと制止され、 「ナルト、俺もお前が好きだ」 「………、ほ、ほんとに?」 「あのときは、驚いて返事できなかったけど…」 ふわっと、唇に掠めていったああらかいものはまごうことなく、サスケのものである。 「サスケーーーーー!!!大好きだってばよ!!!!!」 「っわ!」 抱きつく、というより飛びつかれた衝撃は思いのほか痛い。 「これからは俺が変態教師から守ってやるってばよ」 欲を言えば、こうなる前に守っていて欲しかったが、それは口に出さずに、サスケも微笑み、頷いていた。 「ほらね?上手くいったでしょう、縁結び☆」 「さすがこういうことはカカシ先生ですね」 襖から覗く教え子二人は初々しいことこの上ない。 逆に羨ましくなってくるほどである。 「じゃ、せっかくですし、俺たちも…」 先ほどと同じノリで肩に回した腕は有無を言わさず叩き落とされて。 「カカシ先生!」 「いいじゃないですか、一回くらい!」 「絶対、ダメです!」 硬派なこの男は、忍であるにも関わらず浮気や不倫、そういったことが許せないのだ。 よって、それはカカシの生き様を全否定、ということになる。 「ちぇー、さっきは素直にちゅーさせてくれたくせに」 「あ、アレは!」 「いいですよーだ。イルカ先生がやらしてくんないんなら、サスケを襲いますから」 「なっ!サスケにまで手出すつもりなんですか!?」 そういえば、サスケとのことは知らなかったんだ、と内心ほくそ笑んで。 「ナルトとせっかく上手くいってるのに、いいんですか?俺がサスケ襲っちゃって」 顔はいつものポーカーフェイスのまま、睨みつけてくるイルカの耳元に唇を押しつける。 「イルカ先生がその旨そうな身体を差し出せば、二人は幸せなままなんですよ?」 「?!」 ねじ込められた気持ち悪い舌の感触に、鳥肌が立ってきた。 ほんとに、このはたけカカシという人間は…。 「こ、の、最低野郎!!!!!」 ばきっと、中忍から放たれた拳は上忍の顔面にクリーンヒット、である。 「イルカ先生っ?!」 「痴話喧嘩か…」 あのカカシ相手じゃ苦労が耐えないだろうと、既に自分たちが危機に曝されているとは露知らず、襖の向こうの二人は呑気に笑い合っていた。 END |
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