2004.1.1:A Happy New Year




過酷生活者たちの記録
‐‐新春密着バージョン‐‐





「猿獲ったどー!!!」

緑深く雪深い森の中、突如サスケの声が響き渡った。
「ちくしょう!」
少し離れたところから、高木から地面へと落下してきたナルトが悪態を吐きながら姿を現して。
「見ろよ、ゴールデンライオンタマリン(ブラジル東南部生息:金色の毛がたぶん美しい)だぜ」
「やっべー、マジ美味そうだってばよ…」
「てめえにゃやんねえよ」
「うあカッチィ〜ン!俺絶対ぇウアカリ(南アメリカ生息:顔がやたら赤い)獲ってみせるかんな。一人で食ってやる!」
「殺れるもんなら殺ってみろよ」
フン!と鼻で笑って、ゴールデンライオンタマリンを背中の袋にぶち込む。
もぞもぞ袋の中で嫌がって暴れているのだが、そんなことはお構いなしにまた別の木へと移っていった。
「俺だって!晩メシの一匹や二匹!!!」
ナルトもまた、姿を消すが、袋は未だ空のままである。










「やあみんな、アケマシテオメデトウ」
「おめでたくも何ともないわよ!何で元旦なんかに任務取ってくるのよカカシ先生の阿呆ー!」
「しょうがないでしょ、ココ元旦しか休園日ないんだから」
「んなこと言ってアスマと紅にじゃんけんで負けたとかそんなところじゃないのか?」
「そんなことないって。ひどいなサスケくんは」
何でわかったんだ、と写輪眼で憎々しげにサスケを睨みつけるが、そんなもの額当てに隠されて見えちゃいない。
「ま!いいってばよ!俺サル早く見たい!」
「いいわね、ナルトは単純で」
「だって今日から申年だってばよ!縁起いいじゃん」
「そうだけど〜…」
そう言って、サクラは食べかけの海苔モチをほおばっている。
家族でお節を囲み団欒していた最中、カカシによって拉致られてきたのだった。
「美味そうだな」
「モチだってばよ」
「私の食べかけだけど…v食べる?サスケくん」
「もらう」
「俺も!」
「ね、ねえ…v今度うちにこない?おモチたくさんあるのよ」
「ほんとか?!」
「ウン☆」
「ねえねえサクラちゃん!俺もモチ!!!」
「うっさいナルト!あんたはサルでも食べてなさいよ!!!」
「「!?」」
モチに夢中だった二人が、同時に凍りつく。
サル=肉。
肉=高級品。
である。
「あーあ…サクラ。とんでもないこと言っちゃって…」
「え…?」
「ほらー、あの二人の目、肉食獣の血が戻ってきちゃったじゃない」










と、いう具合で、こういうことになってしまったのだ。
二人の血走った目は尋常ではない。
絡みでもしたら本当に獲って食われそうなので、任務はナルトとサスケに任し、サクラとカカシは少し離れた森の見渡せる草原に避難して待つことにした。
「サル獲ったどー!!!」
「何獲った?!」
「ピグミーマーモセット(南アメリカ生息:バナナより小さい)だってばよ。カワイイなこいつ」
「でも食うとこあんまないな」
「ばっかだなあサスケは。こういうのはから揚げにして頭からバリバリいくんだってばよ」
スズメもそうやって食うだろ、とナルトはわかりやすく日常生活での例をあげて補足を行う。
「そうか!それ、俺も食いたい。もう一匹獲ってこいよ」
「ヤだよ!次俺タラポアン(アフリカ生息:たまらない顔つき)狙うってんだ」
「チィ…、タラポアンか…!」
「でも仕方ねえからピグミー一口やるってばよ。頭はだめだけど。そのかわりわたぼうしパンシェ(南アメリカ中部生息:あたまがわたぼうし)くれってばよ」
「あれはダメだ。食った後ふかふかの帽子作るからな」
「俺だって冬は寒いんだってばよ!」
「知るか!てめえで何とかしろ!」
「何だと?!もうモンクサキ(南アメリカ生息:常に文句言いたげ)獲っても見せてやんねえからな!!!」
「勝手にしろ!俺だって温泉に浸かるニホンザル(日本生息:日光猿軍団)見つけてもてめえにゃ教えねえからな!」
「キィー!!!お前なんかやっぱ大っ嫌いだってばよ!ボッコボコにしてやる!」
「嫌いで結構。よく気が合うな」
双方殺さんばかりの目つきで睨み合いながら、
「「勝負だ!」」
また猿獲り合戦のため散り散りになる二人。
もう、これが何度目になるかわからない。



「カカシ先生…、眠くなってきちゃった…」
「ん?」
飽きたサクラが上司の膝に凭れかかって昼寝を決め込みはじめた頃、森が急に騒がしくなった。
熱帯の鳥特有のギャアギャアという甲高い泣き声はずっと聞こえていたものの、今はヒドく、先ほどの倍の騒がしさである。
「な、何?!」
「ああ、いいよ寝てて。どうせあいつらが騒がしてんでしょ」
「そっか」
顔色一つ変えずにそのままイチャパラ愛読に励んでいる上司に安心したのか、サクラは再度寝転がって。
「それに、何かあったらこっちくるって…」
きっと、面倒事を引き連れながら。



「ナルトォー!!!マンドリル(アフリカ西部生息:鼻とほっぺたの色がキモイ)だ!そっち行ったぞ!!!」
「うおー!マンドリル!!!大物だってばよ!!!」
「「おらァ!!!」」
ドン!と左右からの延髄攻めに、呼吸困難となったマンドリルは地面に力なく崩れ落ちる。
「すっげー、でっけーな!」
「これは食いであるな!」
「なんか、この鼻んとこ美味そうじゃねえ?赤は食欲誘われるってばよ」
ちょっと齧ってみていい?と聞くナルトにサスケは即行ダメ出しをして。
「よせよ、サルの生食は。寄生虫いるんじゃねえか?」
「平気だってばよ」
味見♪味見♪と真っ赤な鼻先を齧ってみれば、
「!ギャッ!」
鋭い痛みに覚醒したのか、マンドリルが目覚めてしまった。
「あ、起きた」
「ギャーーーーー!!!」
有無を言わさぬ攻撃に、サスケは顔面バリバリに引っ掻かれる嵌めになる。
すぐさまナルトをサル目がめて突き飛ばし、難なく危険は回避できたが顔面血だらけだ。
さすが見てくれも強そうなだけある。
「いってぇー!いってぇー!噛むなこいつっ!!!」
「いいから袋に詰めちまえ!」
後ろからも前からも、サルの入った袋でサルを獲った。



「ほら、ね?」
「………」
今度は急に森の中が静かになったかと思ったら、ボロボロになりながら姿を現した小猿が二匹。
パンパンに膨らんだ袋をしっかり握りしめながら、半泣き状態である。

「カカシせんせ〜」
「カカシ…」
「おーおー派手にやったねキミたち」
座んな、と促してから、サクラから救急箱を受け取って。
手際よく傷口を消毒していく。
「ゔっ…」
「染みた?」
「少し」
「キレイな顔が台無し。お前ら今回の任務わかってる?」
そう、二人の食費を浮かせるためにサル狩りをしているわけでは決してない。
ここ、火の国モンキーパークでの生態調査の手助けに、すばしこいサルを捕獲してこい、というものなのだ。
言うまでもなく調査が終わり次第森へと返すもの。
「とにかく、サル獲ればいいんだろ?」
「まあ、そう言っちゃそうなんだけど」
「いてててて!鬼染みるってばよサクラちゃん!」
「文句言わないの!カカシ先生がマキロン全部使っちゃうからアンタにはヨードチンキしかないんだもの」
「ひどいってばよ!俺こんなに猿獲ったのに」
「ん〜、でもまだまだ足らんなあ」
「あと、イボハナザル(チベット・中国南部生息:疣鼻)とアイアイ(マダガスカル島:悪魔)に…、メガネザル(南アジア生息:頭を180度まわして、あたりを見まわすことができます)がいないわね」
「森の人もいないじゃない」
「オランウータン(スマトラ・ボルネオ生息:その容貌から“森の人”と呼ばれるのはあまりにも有名な話)?」
「そう、それ」
「最後にもう一仕事行ってくるか」
「よォし!!!」
いっぱしの仕事人ばりの格好良さで猿袋を肩に担ぎ上げ、また食材の宝庫、恵みの森へとかけていった。

「わけわかんない。猿袋置いて行けばいいのに」
「俺たちが食っちまうとでも思ってんでしょ」
「うえぇ。頼まれても食べないわよ猿なんて」
「ほら、そういうのが通じない子たちだから」
「うん…」
私はあなたを好きになってて本当にいいの?サクラはたまに(主に食が絡んだ時)思うときがある。

「猿獲ったどー!!!」

「あ、また言ってるわ」
“タコ獲ったどー”とそういえば誰かが言っていた。
「今日は二人でずいぶん働いてくれたしね、終わったら焼肉でも食いに行くか」
ここまできて、最後にサルは返すなどといったら一体どれだけ暴れられるかわかったもんじゃない。
いや、初めからそうは言ってあるのだが…。
「えっ!ホント?!しゃーんなろー!!!」
「まあ、あいつらには任務が終わってか…」

「サスケくーん!ナルトー!あのね、カカシ先生が任務終わったら焼肉連れてってくれるって〜vvv」

「バッ!バカお前!」
「えっ?!」
慌てて、サクラの口を抑えるも時既に遅し。
すっかり、声は森中に響いた後だった。

「「!」」
あっという間に猿袋をふっ飛ばし、
「マジで?!」
出口に向かい、走ってくる。
「もちろんてめえのおごりだろうな!」
事の重大さに気づき、青冷めるサクラの視線の向こう、やっと解放されたサルたちがキーキーと四方八方に散らばってゆく。
「カカシ先生!!!」
「カカシ!!!」
胸ぐらに食いついてくる腕を、やんわりと引き剥がして。

「焼肉は食わせてやる、ただし」
「「ただし?!」」
「あの袋をいっぱいにしたらな」
「「?」」
そういえば先程より軽くなった背中を振り返り、目の前のサクラ同様青ざめる。
「お前も反省しろよ、サクラ」
「…はい」
奴らの食欲を甘く見るな。



夜もずいぶんと耽てから、やっと焼肉にありつくことができました。










END




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